麗しの王様は愛を込めて私を攫う
 それから二日後。

 学校へ行くと、皆んながコソコソと話をしていた。数少ない友人のダイアナが、私に耳打ちをする。
 四日前、クロエが何者かに襲われて怪我をしたというのだ。

 四日前……?

「メアリー、ちょっといらっしゃい」

 その日の放課後、私は担任の先生に呼び出された。

「あなた、四日前何をしていたか覚えている?」

 四日前は買い物に出掛けた日だ。
 偶然クロエに会い、着けていた青いリボンを奪われている。

「一人で買い物に行きました」
「そう……では、そこでクロエに会って、彼女からリボンを奪ったのね?」

 先生は頭ごなしに決めつけて話してくる。

「違います、私は」

 私は首を横に振り、取っていないと主張したのだが。

「あなたのカバンからクロエが取られたと言う赤いリボンが出てきたのよ、嘘はいけないわ」

 先生は机の上に、私があの時拾ったクロエの赤いリボンを置いた。

「そんな……」

 あの時拾ったリボンを私は洗い、今日クロエに渡そうとカバンの中に入れていたのだ。
 それがここにあるという事は、先生は勝手にカバンを開けて?
 それに、私が持っている事を知っていたの?

 なぜ? と不安な目を向けると、先生は納得したように頷いた。

「クロエに怪我を負わせたのもあなたなのね?」

「怪我なんて、そんな事しません! 私はクロエにリボンを取られて」

「下手な言い訳はおよしなさい! クロエが言っていたのよ。あなたに突き飛ばされたと、彼女は腕の骨を折ってしまうほどの大怪我を負ったのよ。でもね、きちんと謝りにくれば許してあげると言ってくれているわ」

 私もついて行ってあげるから謝りなさいと先生に言われ、私はクロエの家へとしてもいない事を謝りに行くことになった。

 玄関先に出てきたクロエは、私の謝罪を受けるとニンマリと口角を上げた。

「いいわ、許してあげる」

 そう言って私を見下しながら、クロエは声をあげて笑った。



 クロエは私を虐めたいだけだ。
 怪我をしたと嘘までついて……。
 
 けれど今は、クロエの嘘を信じ、私の言葉を先生に信じてもらえなかった事が悔しかった。


 その日の夜、花束が届けられた。

 添えられたカードには、
『もう少しだけ待っていて』と書いてある。

 何のことだか意味がわからない。

 おばあちゃんは呑気に「王子様が迎えにくるんじゃないかねぇ」なんて言って笑っていた。


 花なんて、その日の私はどうでもよかった。



 深夜、クロエの商家に何者かが火を放った。

 火の回る家から逃げのびた彼女と家族は、その後遠くの街へと移って行った。

 商売を営むクロエの家は、裏でいろいろな事をしていたという。そこには人に話せない事もあったらしく、彼らがいなくなった途端、それまで媚びていた大人たちは、放火をされるような事をしていたんだろうと悪態を吐く様になった。
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