麗しの王様は愛を込めて私を攫う
 あれは、リシウス殿下が言葉を話されるようになってからの事だ。
 当時、この国は隣国と戦いの最中だった。
 戦議会議が行われている中、リシウス殿下はそこへ入って行かれた。そうして、自ら作った駒を使い大人たちが、気づいていなかった我が軍の戦闘の弱点を指摘された。その上、今後の戦略までを指示されたのだ。

 的確で勝機あるその言葉に、幼い子供の言うことなれど、何故か誰一人としてそれに否を唱える者はいなかった。

 そして、リシウス殿下の戦略を使った我が国は、大勝利を収めた。
 

 カリスマ性というものだろうか。
 はたまた神がかった力を持たれているのか。
 その件以降、リシウス殿下に心酔する者が増えていった。

 リシウス殿下は、素晴らしいお方である。
 容姿端麗、頭脳明晰、身体能力も優れておられる。
 仕える私にとっても誇らしい、完璧な王子様なのだ。

 ……だが、何事も出来てしまう所為なのか、人としての感情に、少々問題があると私は思う。


◇◇


「どうすればあの娘を僕の妻に出来る?」

 あれから一年が過ぎていた。しかし、リシウス殿下は森で出会った少女、メアリー様の事を今もまだ妻に迎えようと考えておられた。

「人の心は変わるものです。今はまだメアリー様を想っておられるようですが、この先、もっと心を動かされる女性に出会うかも知れませんよ? ですから」

「僕は、どうすれば彼女を手に入れられるかと聞いているんだよ、アダム。他の答えなど要らない」

 リシウス殿下は少年とは思えないほど鋭い目を私に向けられた。

 背筋が凍りつくような思いをした私は、やはりこの方に逆らってはいけない、と思い直した。

「申し訳ございません。メアリー様をリシウス殿下がお妃様になさりたい、と仰られるのなら方法は二つございます」

 その返事に、リシウス殿下は目を細める。

「二つもあるのか、聞かせて?」

 私は前もって用意しておいた答えを返した。

「はい、一つはメアリー様を貴族の養子に迎えます。出来れば侯爵辺りがよいでしょう」

 あの美しさで、必ずリシウス殿下の伴侶となると分かっていれば受け入れる貴族はあるだろう。
 しかし、私の出した答えはつまらない物だったのか、リシウス殿下は不満そうな顔をされている。

「ふうん……もう一つは?」

 やはりか、と私は思い切って難しいが胸に秘めていた答えを出した。

「リシウス殿下が王様になられる事です」

 私の願いでもある、そのもう一つの答えには興味を持たれた。
 リシウス殿下の瞳は輝きを増す。

「王に? 王なら何をしてもいいという事?」
「そうです。この国では王様が絶対的権力を持っております。独断で法を変えることも、人を裁くことも、身分など気にすることなく、どんな女性をお妃様に迎えようとも、文句を言える者はおりません」

 そうは言ってもリシウス殿下は第三王子様。

 上には正妃様のお子である第一王子様と第二王子様がいらっしゃるのだ。
 リシウス殿下が王様の座に就くのは難しい。

 お話をしたものの、殿下の望みを叶える為には、平民の少女を迎え入れる貴族を探す方が早いだろうかと私は考えていた。だが、リシウス殿下は「なーんだ」と軽い口調で答えられた。

「じゃあ僕が王になる。兄達と現王がいなくなればいいだけなんだろう? ちょっと時間はかかるけど難しいことじゃない」

 それはリシウス殿下が十二歳の時の話しだった。
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