麗しの王様は愛を込めて私を攫う
 リシウス殿下は、十四歳になられた。

 この一年で、ずいぶんと背が伸びられ、その容姿にもさらに磨きがかかられた。

 長く伸ばされた銀色の髪に透き通るような白い肌。スッとした輝く青い瞳からは、男性とは思えない程妖艶な美しさが溢れている。

 美しい貴族のご令嬢方からのお誘いも増えた。

 だが、殿下はその方達には見向きもせずに、相変わらずメアリー様に執着されていた。



「ああ、そうだアダム。礼装を準備しておいて、もうすぐ必要になるから」

 ……? 礼装?

 リシウス殿下のシャツのボタンを留めていた私は、何事かと動きを止めた。

「誰かお亡くなりになられるのですか?」

 確かに親族にはお年を召した方はいるが、すぐに亡くなるような方はいらっしゃらないはず。
 そう考えていた私に、リシウス殿下は「分からないの?」と笑われる。

「僕が王になる為の駒を進めたんだよ」
「駒……?」


 礼装が仕上がった頃、第一王子様が原因不明の病にかかり、その二日後に急死された。

 その死因には誰一人、不信を抱くものはなかった。
 そもそも、我儘で散財をされていた第一王子様はあまり国民から支持されていなかったというのもあるが……。
 病によって亡くなられた為、その葬儀はひっそりと行われた。

 その中で、話題となったのは、兄を亡くし憔悴した様子のリシウス殿下が、墓石に花を添える姿だった。参列者達は、不敬ながら妖艶で美しかったと声を揃えていた。
 

◇◇


「ああ、メアリーに会いたいなぁ」

「この間見に行かれたではありませんか」
「寝ている彼女ばかりじゃつまらないよ」

 リシウス様は時折、寝ているメアリー様に会いに行かれている。
 もちろんメアリー様は知らない、一緒に住んでいるおばあさまも気づいていないだろう。

「口付けぐらいはしてもいいかなぁ」
「ダメです! そんなことをしては嫌われてしまいますよ」
「そっかー……ダメかぁ」

 ただでさえおかしな事をしているのに、この王子様は……。メアリー様の事となると言動までおかしくなられる。困ったものだ……。


 しかし、この方は本当は凄い人なのだ。

 今、影ながらこの国を動かしているのは、若干十四歳のリシウス殿下である。

 のんびりとし、女性にだらしのない現王様と、政治に疎く先日亡くなった第一王子様と変わらず豪遊されてばかりの第二王子様の知らぬ所で、国の内側だけでなく外交にも力を置き、国を動かしておられるのだ。
 口うるさい大臣達からもその手腕は一目置かれる存在となっている。


 じわりじわりとその首に手が掛けられているとは知らぬ二人は、まだリシウス殿下を子供扱いされ気にも留められていなかった。


◇◇


 リシウス殿下は定期的にメアリー様に贈り物をされていた。

 しかし、メアリー様はそれを大切に仕舞うばかりで使ってはくれない、とリシウス殿下は嘆いておられた。

 殿下が贈られる品物は、大変上質で高価な物だった。

 メアリー様は質素倹約を好まれる方。
 それに、今はまだ平民なのだ。

 上質すぎて使えないのでは、もう少し安価な物にされたらいいのでは? と提案したが、将来の妻にそんな物を贈ることは出来ないと怒られてしまった。
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