1monthCinderella〜契約彼氏は魔法使い〜

と、そんな甘い話で無く。

目の前にはカトラリーが左右に美しく並べられている。

座席に着くところからレッスンは始まっていた。

「バイトの無い日はここでマナーレッスンを受けてくれ。洋食和食、立食とさまざまなシチュエーションでのレッスンを10回に渡っておこなうそうだ」

「はい」

こんな風にマナーを習うことがなかったから、緊張して食べた気がしないけど良い経験ができたって、あと9回あるけど。

レッスンが終わると次に連れて行かれたのが整体とマッサージだった。

「体の歪みの矯正をして今日はおしまいです」

あまりに爽やかに言われたので、こんなに痛いとは思わなかった。

ポキポキとどっか折れてるんじゃ無いかと思いながら施術が終了すると驚くほど体が軽くなった。

「すごいです、スッキリしました」

「それはよかった。ではそろそろ帰ろうか」

そう言って車に乗り込んだまでは覚えていたが気がついた時はベッドの中だった。
べッドには私ひとりで時間を確認すると午後10時を過ぎたところだ。

昨日今日と色々なことがあった。

たくさんの衣装に化粧品。

口紅!

キョロキョロと周りを見ると化粧品の入った紙袋がサイドテーブルに置かれていた。

その中から竜基さんが選んでくれた口紅を取り出すと口紅を繰出してみる。

暗くてよく見えないけど、昼間つけてもらった時は優しいピンクだった。

ケースに戻してからバッグに入れる。

1ヶ月、竜基さんが求める偽装恋人になるためのお守りにしよう。

いけない、服が皺になる!

と、思って慌てて確認すると大きなシャツに変わっていた。

着替えさせてくれたんだ、って、見られた!

あっ、でも今更?

何だか頭がグルグルしてきた。

ベッドから降りてリビングに向かうと竜基さんはソファに座り膝にモバイルパソコンをのせて作業をしていた。

「あの、今日は色々とありがとうございました」

「今日はもうお風呂にでも入って寝るといいよ。って、その姿はかなり官能的だね」

そう言われて見ると超膝上で、いわゆる彼シャツというやつだ。

急に恥ずかしくなって着替えをとりに行ってからバスルームに向かった。

髪を洗いながらふとそもそも着替えをしてくれたのは竜基さんだと思いだして、急に恥ずかしくなってブクブクと水中に潜った。

明日は大学か・・・正直、気が重い。

井口乃乃が黙っているとは思えないし、バカにしてくるんだろうな。何で、あの時断らなかったんだろう。別に好きだった訳じゃない、告白してくれた上野くんに申し訳ないと思った、嫌違う告白されたことで舞い上がってしまった自分のばかさ加減にほとほと嫌になる。


二日間で凄く散財させてしまったけど、それほど結婚したくない理由ってなんだろう?

リビングでは相変わらず竜基さんはパソコンに向かっていた。私に気がついて「ビール飲む?」と言ってパソコンを閉じたので頷いてソファに座った。

足つきのビールグラスとグリーンの瓶に入ったビールを持って戻ってくると程よく泡を作りながらグラスに注いで手渡してくれた。

「綺麗なビール」

「ハートランドというビールなんだ。瓶のビールは色々なメーカーのものを揃えてあるし、それ以前にお酒は色々あるから好きに飲んでくれて構わないよ」

「家もBARみたいなんですね」

「母体が酒屋だからね、酒屋と言っても今は店舗を持っているわけではなくて輸入と卸をしているんだ。その延長線としてアンソルスレールもあるんだ」

「そうなんだ」

何となく違和感はあったけど、社長ってことなのかな?

色々と疑問はあるけど、聞いていいのかわからないから寝ることにした。
< 14 / 88 >

この作品をシェア

pagetop