1monthCinderella〜契約彼氏は魔法使い〜

<本命の彼女?>

1週間頑張った自分へのご褒美はアンソルスレールでカクテルを飲むこと。それは竜基さんと一緒に暮らしていても続けていたかった。
ラフな姿もスーツ姿も素敵だけど、バーテンダーのウェストコート姿に癒されながら好きなお酒を飲みたいと言うのが理由だ。

マナー講座が終わって急いでアンソルスレールに到着すると竜基さんは綺麗な女性と話をしていたが、竜基さんは私を見ると「いらっしゃいませ亜由美様」とアンソルスレールでの呼び方でいつもの席に案内された。
家では呼び捨てなのにここでは“様”をつけて呼ばれる事もこの店に来たい理由の一つだったりする。

この席からだと、竜基さんと話をしている女性が死角になって見えない。向こうからももちろん見えないし、こういう配慮ができる店づくりであるからこそ私も居心地がよかった。

契約期間が過ぎたら、どんな顔でここにくればいいんだろうか?別れたとしてもこの店にはきたい。別に、喧嘩とかそう言うので別れたわけでなく初めから期間を決めて始めたことだから、普通に来ればいいんだろうけど竜基さんが目の前で本当の恋人と一緒に居たら、胸が苦しくなるかもしれない。

「竜基ぃ」慣れた感じで呼ぶ声がする。
声の主は死角にいる女性から発せられていてその甘ったるい言い方が気になって少し体を乗り出して見ると、どこかで見たようなヘアスタイルだった。


どこだっけ?

記憶を辿っていると竜基さんが「お疲れ様」と言って目の前にブラッディ・メアリー置いた。

いつもの様に話をしようと思っていると
「竜基ぃ〜」と呼ばれて話が出来ない。
ワザと自分にだけ注目してもらうためにしつこく名前を呼んでいる様に見えるけど、そもそも竜基さんは接客業だから仕方がないことで、私は家に帰れば話ができるからカクテルを楽しむ事にした。

スマホでブラッディ・メアリーを確認するとカクテル言葉は“断固として勝つ”だった。
ここの所いろいろとあったし、この契約恋人も本番はこれからだ。

“断固として勝とう”
心の中で拳を握った。

トマトジュースを使ったカクテルにセロリも添えてあって、体に良さそうで病気にも勝ちそうだと思いながら飲んでいると、竜基さんが来て「悪いが急用が出来たから先に帰っていてタクシーを呼んでおく」

もっとゆっくりしたかったけど、そこまで言われてしまうと帰るしかない。

「わかった」

「ねぇねぇ竜基ぃ、おかわり早く」

周りにも聞こえてるくらいの音量に何となくいやな気分になるが、客だから仕方がないんだろう。

ブラッディ・メアリーを飲み干した所でタクシーが来たと言われて、店を出た。
なんかすごく我儘そうな客だった。
私だって、バーテンダーの竜基さんと一言二言言葉を交わしながら飲むカクテルが好きなのに。
かと言って、私まで我儘を言う気になれず呼んでもらったタクシーに乗り込むとマンションへの住所を告げた。


オートロックを解除してロビーに入った時に、肩がぶつかった女性を思い出した。

あんな感じの髪型だった気がする。

何となく眠れずに京子にラインを送るとすぐに音声通話が来て話をした。

『何かあった?』

「別に、竜基さんも遅いし眠れないから」

『ふーん、そいう言う事にしておくね。言いたくなったら話してくれればいいから』

京子って凄い、こんな風に気づいてくれて気遣ってくれる。だけど、まだ言いたくない。
「ありがとう、もう少し整理できたら相談するね」

『うん』

その後はドラマや漫画の話をして通話を切った。



竜基さんはいつもなら帰宅するはずの時間も帰ってこない。
まさか外泊とか無いよね。
でも、だとしても単なる契約の私には何も言えない。

竜基さんのおかげで私は変われた。
それが竜基さんとの契約なんだから、本当の恋人と同じ考えではいけないんだ。

何も考えたくなくてベッドの中で丸くなった。
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