1monthCinderella〜契約彼氏は魔法使い〜
レースをあしらったモスグリーンのプリーツのワンピースにベージュのバッグとミドルヒール、そして淡水パールのネックレスを着けた。

髪はアップにしてネックレスとお揃いの淡水パールの簪で留めるとブラックスーツにグレーのベストを合わせた竜基さんの腕をとった。

いつものスーツではない準礼服姿の竜基さんは待ち受けにしたいほど素敵だと脳内に小さい私が騒いでいると

「いつも綺麗だけど今日はいつも以上に美しいよ」

なんて甘い言葉を耳元で囁かれた。
ううっ・・・こう言う言葉がスラスラ出てくるってやっぱり竜基さんはキケンな男なのかもしれない。

「竜基さんも素敵です。あとで写真を撮ってもいい?」

「それなら二人で撮ろう」
そう言ってマンションの前で待っていたハイヤーの運転手さんに写真を撮ってもらった。

なんか、バカップルぽくない?
でも、すごく素敵な写真で直ぐに待ち受けに設定した。


パーティー会場に入るとチクチクと視線が刺さってくる。


色々な人が竜基さんと話をするために近づいて来るたびにちらちらとみている。
バーテンダーの竜基さんもお店ではオーラが出ているけど長友商店の社長としての竜基さんはまた雰囲気が違う。
私との世界の違いがひしひしと感じられて少しだけ自信が揺らいだ時

「竜基い〜」

聞き覚えのある甘えた声が聞こえてきた。

ピンクの肩を出すようなデザインのドレスを身に纏った志摩が竜基さんの腕にしがみついていた。
そういえば、パーティには出るって言っていたっけ。というか懲りて無い。

「志摩、俺は恋人をエスコートしているからこういうことはやめてくれ」

竜基さんに腕を外された志摩は私の存在に気がつくと睨んできた。

「家政婦?」

「志摩いいかげんにしろ」

注意をされると横を向いて頬を膨らませる。

志摩さんって私より年上だよね?子供みたい。

って、先日わたしも不貞腐れた時ってこんな感じだったんだろうか?嫌だ気をつけよう。

自己紹介をするべきかどうかがわからなくて黙っていると

「自己紹介もできないの。で、どこのお嬢様?」

志摩さんは顎を上げ気味に威圧的に言い放つと

「志摩に紹介をするつもりはないよ」

と言って竜基さんは私の肩を抱き寄せて歩き出した。


「この間の私もあんな感じだった?」

私の言っている意味がわからなかったのか首を傾げている。

「その、拗ねたというかいじけた時」

「ああ、あの時の亜由美も可愛かったよ」

揶揄われてつい口を尖らせてしまった。


ご両親に挨拶をしてから、竜基さんの友人や会社関係の人たちと挨拶を交わしていると司会者がステージ下から進行に関する説明があり50周年パーティが始まった。

会長の挨拶のあと竜基さんも壇上で社長就任の挨拶と乾杯の音頭を取った。

家族というわけではないから、あとは壁の花として美味しそうな料理をいただくことにした。

昨日の懐石料理もだが、立食パーティにもマナーがあって竜基さんが学ぶ機会を与えてくれたおかげで迷うことがない。前の私ならどうすればいいか緊張して失敗をしたかもしれない。

近くでヒソヒソと話が聞こえてくる。

《一人かな?》

《声をかけてみるか?》

《立ち振る舞いからするとどっかの令嬢かモデルとか?》

《歩き姿も綺麗だよな》

誰のことだろ?まぁ自分でないことは確かだ。

お寿司や一口で食べられるように丸めて串で刺したローストビーフなどをお皿に載せて料理から離れると、先ほどヒソヒソ話をしていた男性が近づいてきた。

「少しお話しませんか?」

え!さっきのって私のことだったの??

どうしよう、このパーティにふさわしいわけではない私が何の話をすればいいんだろう?
このままだと焦ってぼろを出しそうで迷っているとスレンダーで長くてストレートの黒髪の女性が声をかけてきた。

「ごめんなさい、彼女と話があるのでいいかしら?」
黒髪の女性がキツ過ぎずそれでいて否とはいえない絶妙な声色で話すと男性は軽く頭を下げて離れていった。


ホッとしていると

「余計なお世話だった?」

「いえ、助かりました」

「お名前を伺っても?」

あまりにもスマートで見とれてしまいそうになり、慌てて名前を伝えると、その女性も鈴木佳子さんだと教えてもらった。

「さっき、竜基と一緒にいた方よね?婚約者じゃないわよね」

なんで竜基さんを呼び捨て?
志摩さんと同じような匂いがしてちょっと嫌だ。私が猫だったら全身の毛を逆撫でたかもしれない。

自信を持て、わたしは恋人だ

「お付き合いしてます」

「竜基もやっぱり男ってことね」

そういうと佳子は私の胸を蔑むようにみる。

「どういう意味でしょうか」

「“ただ”の彼女であって、婚約をしてるわけじゃないんでしょ。だったら目的は一つだもの」

“今は”恋人なんだ、怯む必要はない。

「失礼なことを言わないでください。あなたにそんなことを言われる謂れはないです」

口を片方だけ上げバカにした表情で私をみる。

「ごめんなさい、ところであなたはどこの企業の御令嬢?」

「家のことは関係ないです」

佳子は口元に指を当てると鼻で笑いながら

「そんなことを言ってる段階であなたの役割がよくわかるわ。私はねベルウッドグループ社長の娘なの。外食チェーン、わかるでしょ?竜基に必要なのは誰なのか」

もうヤダ、いくら着飾ってもマナーで武装しても自分の地盤が弱ければダメだと言う事?
それ以上にこの人の目的がわからないから、何も言い返せずにいるとシャンパンをトレーにのせて歩いてきたボーイからグラスを一つ受け取ると一口だけ飲んだ。

「竜基とは愛し合っていたのに私は政略結婚させられて離れることになったけど、ようやく離婚ができて竜基のもとに戻ることができたの、彼を待たせてしまったけどこれからはビジネスパートナーとしても、もちろん人生のパートナーになることができるのよ。だから、もうあなたの役目はおしまい。お礼を言うわ」

元カノ?待たせた?
「どうして急にそんな事を言ってくるんですか?」

「離婚が中々成立しなくて会えなかったよ。下手に会ったりしたら私の不貞を疑われるから。でも、もうそんな事を考えなくていいから今日はここにきたのよ」

人妻だったから隠さないといけなかったってこと?

佳子は言うだけ言うとどこかへ行ってしまった。

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