1monthCinderella〜契約彼氏は魔法使い〜
「行こうか」

そう言って竜基さんが腕を出したので手を添えて歩き出す。
多分、私の後ろには佳子がいる。

「竜基」

「そろそろ終了になります。会場へどうぞ」
声をかけられた竜基さんは落ち着いた声で答えた。


滞りなくパーティは進み無事に終了した。

「亜由美ちゃん、近々また会いましょうね」
お母様は優しく微笑むとお父様と一緒にハイヤーに乗り込んだ。


「ふう」

パーティ自体も疲れたけど、それ以上に志摩さんと佳子のダブル攻撃が効いた。
それで思わずため息が出てしまった。

「お疲れ様、完璧なレディだったよ」

「良かった。これで条件はクリアできたって事ですよね」
自分で言っておいて少し寂しい気持ちになる。

「いやいや、今月中と言うか親父とおふくろがフランスに帰るまでは契約期間になるからね、そのまま延長でもいいけど」

「延長なんて」
佳子さんは本当の所、どうなんだろう?

会場に戻るとき、佳子は竜基さんを呼び止めたあと竜基さんの隣を歩き出し、会場の入り口でわざわざ肩に手を置いてから「じゃあまた」と言って歩いて行った。



ハイヤーの中でもマンションの部屋に帰ってきても

モヤモヤする。
少しだけでも一人になりたい。


「疲れちゃった。お風呂に入ってもう寝てもいい?」

「もちろんだよ」そう言って手が伸びてきた。いつものようにその手が髪を撫でて抱き寄せてキスが落ちてくる。でも、今日は無理だ。

唇が重なる前に体を離してバスルームに向かった。

バスタブに浸かりながら涙がこぼれる。

私はシンデレラなんかじゃない。
だって、私にはハッピーエンドは無いんだから。

竜基さんはバーテンダーだけど、本当は会社の社長でいつかは身分に見合った人と結婚する。
だから学生ですぐに結婚の話が出ない私が恋人の役目をしている。竜基さんにとって私は、佳子がフリーになるのを待つための繋ぎなの?
だから最後までしないの?

だからホクロなんて知らない。

泣いていたのを知られたくなくて、急いでベッドルームに行くとベッドに潜り込んだ。
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