スパダリ部長に愛されてます
エレベーターで1階まで降り、外に出ると、部長が腕時計を見ながら提案する。
「3時前か、どこかカフェに入ろうか」
「はい」
建物を出てすぐにある、TULLY’S COFFEEに入る。
一緒にメニューを考えながら、さらりと私のコーヒーも一緒に買ってくださり、席についた。
ヨガ教室の後に何度も来ているお店なのに、
部長の優雅なエスコートで、素敵なレストランに連れてきてもらったようで、ふわふわと嬉しくなってしまう。
店内の女性陣の視線をいくつも浴びつつ、奥のテーブルに向かい合って座る。
そんな女性からの視線にも気付かないのか、慣れているんだろうか、部長は全く動じない。
でも、そのままの視線でこちらも浴びてしまうのがちょっと困ってしまう。

一口飲んだところで、部長に正面から見つめられながら、レッスンの感想を言われた。
「ヨーコ先生のレッスンもすごく良かったよ。
先生が変わると新鮮だね」
「ちょ、部長、ここはスタジオじゃないので先生はやめてください。
名前で呼ばれるのも、ちょっと困ります。」
身を乗り出して、テーブルの向こうの部長に顔を寄せ、小声で訴える。
周りが騒がしいとはいえ、さすがに恥ずかしい。
部長がくすくす笑う。間違いなく私をからかって楽しんでる。
「うーん、そうは言っても、俺も今はプライベートだからね。
じゃぁ、洋子さんにしようか」
両手の指をあごの下で組んで、身体を私の方に前のめりにさせて提案してくる。
いたずらっ子のようで、かわいいと一瞬見惚れかけたけれど、
そう言われたら確かに、今はプライベート。
「ということで、部長って呼ぶのもやめてもらえる?」とニッコリと微笑みながら続けて言われる。
「えーっと、じゃぁ、私は、け、賢二さん??」
伺うように視線を部長に向けると、
「そうそう」とにっこりと微笑まれた。

その後は、会社の話になり、
「ヨガで会った話は社内で内緒にしとこう。」
と部長も私も意見は一致した。
さらに、「洋子さんの先生の一面は、会社の奴らには知られたくないな。」
とさらりと言われ、ドキドキしてしまった。
確かに、女性の社員さんが来るのは嬉しいけれど、
他の男性の社員さんが来るのは、ちょっと恥ずかしいかもしれない。
「家も会社も心機一転と思って、目黒から新宿に引っ越したんですけど、ヨガ教室は離した方が良いですかね。」
独り言のようにつぶやくと、部長が少し目を大きくして、驚いたように否定された。
「いやいや、こうして会えたんだから、俺は嬉しいよ。
それに、1年以上続けてて、会ったのは俺だけだろう?じゃぁ、大丈夫だよ。」
そんなものかと思ったし、家も会社も教室も近いのはとてもありがたいので、このままで良いかと思った。
何かあれば、その時にまた考えよう。

会社の話は短めに終えて、その後はヨガの話や、お互いの学生時代の話で盛り上がった。
部長は高校で1年間と、大学の4年間をアメリカで過ごし、現地の会社と日本の会社を経て、
2年前に今の会社に転職したらしい。
社内の女性陣の噂話は本当だった。
職場で英語を話すところを見たことはないけど、なんだか納得できる。

楽しい時間はあっという間に過ぎる。
気が付くと外は薄暗く、もうすぐ5時になろうとしていた。
時計を確認する部長を見ながら、
まだ帰りたくないなぁと思う自分自身に驚いていると、
少し迷ったような目をしながら、部長が私の様子を伺ってくる。
「どうする?
良かったら、ご飯でも食べて帰らないか?」
「でも、彼女さんとか、良いんですか?」
一瞬びっくりした顔をされたけど、部長は優しく笑って答えてくれる。
「俺はフリーだよ。
こっちに戻って、ずっとフリーだから。
そういう洋子さんは?彼氏が待ってる?」
「あ、いえ、私は3年以上フリーです。」
部長に熱い瞳で見つめられて、最後の方は声が小さくなってしまった。
うー、こんなのどうしたら良いのかしら。
なんか、妙な気持ちになっちゃう。
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