スパダリ部長に愛されてます
聞いてみると、お互いの家は同じ代々木方面だとわかり、
部長の家の近くにあるという、おすすめのスペイン料理屋さんに行くことになった。

部長は自転車。私は徒歩。
家に自転車を置いてから向かいたいと言うので、一度部長のマンションに寄ることになった。
自転車を押す部長と並んで歩く。
「今日は何回も言いますけど、ほんと不思議な感じがします。」
「うん、俺も。
こうして洋子さんと話せるなんて嬉しいよ。」
「はい。私も雲の上の存在の部長とこんなにお話しできて嬉しいです。」
「雲の上??」
「そうですよ。
部長とこんなに近くでお話しようものなら、会社の女性陣に、特にファンクラブの方になんと言われるか。
今日は特別な日です。」
真面目な顔で返すと、困った顔をされてしまった。
でも、本当の話。
会社で今日の一連の出来事を話したら、周りに質問攻めにされて大変なことになってしまう。
「今日のことは、部長と私の秘密ですから。」
「わかった、秘密か。
それはいいけど、さっきから呼び方が部長になってるのは変えてもらえる?」
部長が急に立ち止まるので、私も立ち止まって部長を見上げる。
「すみません。やっぱり慣れなくて。」
「ちゃんと呼んで欲しい。」
「え、でも。」
「呼んでくれないと、動かない。」
本当に部長が自転車と共に立ち止まってしまった。
「えーーー、何言い出すんですか??
動いてください!歩きましょ!」
慌てて振り返り、部長の所に戻る。
「やだ。」
「駄々こねないでください!」
「やだ。」
部長の腕を引っ張るが、頑として動いてくれない。
その様子がおかしくておかしくて、笑いながら「賢二さん!」と呼ぶと、
「うん」と歩き出してくれた。

「賢二さんはもう子どもじゃないんですから。
賢二さんは思ってたよりわがままなんですね。
そんな賢二さん、はじめて見ましたよ。」

こちらも意地になって「賢二さん」を連呼してみた。
思いのほか、部長が嬉しそうで、私も嬉しくなる。
2人で向かい合って、腕に触れたまま、声を出して笑った。
いやぁ、酔ってないのに、なんだか酔ってるみたい。
< 11 / 50 >

この作品をシェア

pagetop