スパダリ部長に愛されてます
2回目のパーソナルレッスンも無事終了。
今回も、さらっと部長に「この後、どうかな」と言われたので、
「はい」と前のめり気味に返事をした。
うーん、期待してたように聞こえるかしら。
でも、実際期待してたんだし、いっかな。

先週と同じカフェに入り、2人でおしゃべりして楽しむ。

2人でお茶をしていたら、テーブルのすぐ横に人が立つ気配がした。
「洋子?」
見なくてもわかる。
この声は、元カレ 寺嶋 悟(テラシマ サトル)だ。
顔を向けて、「悟、久しぶりだね」、笑顔を作ろうとするが、引きつってしまうのが自分でもわかる。
よりによって、こんなタイミングで会うなんて。
「元気にしてたか?」
「うん。」
「ちょっとだけ、話がしたいんだけど。」
「え、でも。」
困っている私をわかっていながら、強引に悟が話を進める。
私が部長の方に視線を向けると、部長は悟をじっと見ていた。
悟は真剣な顔をして私の目をまっすぐ見つめる。
どうやら引く気はないようだ。
「部長、ごめんなさい。
少しだけ席を外してもいいですか。」
「うん。ここにいるから。少しだけな。」
後半の『少しだけ』は、悟の方に向けて、少し大きな声になっていた。

悟に背を押され、一度お店の外に出る。
部長からは死角になる柱の陰に連れて行かれる。

「あの人のこと、部長って?」
「うん、今の会社の上司なの。」
「どこで働いてるんだ?
いや、どこに住んでるんだ?
あの人と付き合ってるのか?」
私に答える暇をあたえないままに、どんどん声が大きくなるのが怖い。
お店に出入りする人が怪訝な顔で通り過ぎる。
「悟、そんな大きな声出さないで。
あの人は上司だし、変なこと言わないで。
それに、もう悟には関係ないでしょ。」
「いや、あの目つきは違う。洋子のこと気になってると思う。
それに、二人して似た格好してるんだな。
趣味、変わったのか?」
「ごめん、私たち終わったでしょ?
もう、いいかな。」
悟はイライラしているようだが、なぜなのか意味がわからない。
イライラしたいのは私の方だと、段々私もイライラしてきてしまった。

「もういいだろ。
洋子、行こう。」
背後から部長の声がした。
私のコートと荷物を持ってお店から出てきた部長が、私の肩をぐっと掴んで、
悟に見せつけるように、私を部長の胸元に引き寄せた。

そして、もう一度、はっきりと悟に向けて、
「もういいかな。
彼女、嫌がってるだろ。
行こう。」
真剣な表情の部長には、有無を言わせない雰囲気がある。
「さよなら。」
かろうじて、一言絞りだして、悟を一瞥し、
振り返ることなく、部長に肩を組まれたままその場を去った。
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