Restart~あなたが好きだから~
「はい。」


緊張の面持ちで答える七瀬に


「私はこの2年で経営者として、なんら思い残すことのないのように、ビジネスマンとして完全燃焼出来るように、馬車馬のように、ガムシャラに働くつもりだ。君にお願いしたいのは、圭吾がそんな私に後れをとったり、気を抜いて楽をしようとしたりせんように、しっかり監視して、叱咤激励して欲しいんだ。」


社長は言う。


「城之内さんは私にも付いてくれていたから、彼女の優秀さはよくわかっているが、いかんせん優し過ぎた。その点、君なら、圭吾に物おじせず、ケツを叩いてやることも出来るはずだ。」


「社長・・・。」


(私って、社長にどんな女だと思われてるんだろう・・・?)


社長の言い草に、思わず七瀬が複雑な思いを抱いていると


「もし圭吾がだらしなくて、2年後の私の引退が無理だったら、逆にあと10年は居座るからな。」


社長は言い出す。


「だがそうなったら、私の第二のライフプランは狂うし、圭吾も困るだろうし、何より会社の為にならん。」


「・・・。」


「要するに、誰の為にもならんのだ。そんなことにならんように、藤堂さん。是非、コイツを支えてやってくれ、公私ともに。」


「えっ?」


「と、父さん・・・。」


最後にさりげなく付け加えられた一言に、七瀬は驚き、氷室は慌てたように父を見るが、社長は


「ということで、よろしく頼むぞ。2人とも。」


と言って、立ち上がった。


社長室を辞して、専務執務室に戻る七瀬と氷室。だがほんの数メートルを歩く2人の間には、何とも言えない空気が流れる。


「それにしてもまさか親父が完全引退を目論んでるとは・・・。」


取り繕うようにポツリと呟いた氷室に


「専務、こんな所で滅多なことをおっしゃらないで下さい。」


七瀬は釘を刺すように言う。


「そ、そうだな・・・。」


慌てる頷く氷室。いつもとは違う雰囲気のまま、部屋に入った2人に


「お帰りなさい。」


と声が掛かる。


「おぅ。」


「澤崎さん。」


「専務、副社長就任おめでとうございます。ひとこと、お祝い申し上げようとお待ちしてました。」


と言って笑顔を見せたのは、人事部次長の澤崎貴大だった。


「ありがとう。これからもよろしく頼むぞ。」


つられたように笑顔になった氷室が、手を差し出すと


「ああ。」


澤崎はその手を握り返す。


(そっか、このお2人は同期だったんだな・・・。)


その光景に、七瀬は思い出していた。
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