Restart~あなたが好きだから~
「わかりました。」


頷いた七瀬は、まず古巣となった専務室に入り、持ち出すべきものは持ち出し、残すべきものがキチンとそのままになっていることを確認し、次に第一副社長室が、事前の計画通りになっていることを確認すると


「大丈夫です。みなさん、お疲れ様でした。新副社長から、みなさんにということで、飲み物とお菓子を預かっております。戻られたら、召し上がって下さい。」


笑顔で告げると頭を下げた。


「ありがとうございます、副社長によろしくお伝え下さい。では失礼します。」


それに応えて、一礼して去って行く彼らを見送った七瀬は、改めて新たな住処となったオフィスを改めて見渡した。


(いよいよ私も副社長秘書になるんだな・・・。)


自分でも今更とは思うが、そんな思いが胸に浮かんで来る。右も左もわからぬところから、夢中で過ごしているうちにあっという間に過ぎて行った感の強い専務秘書としての約2か月。


(凄く濃密な時間だった。でもこれからはもっと濃密で厳しい時間が待ってるんだろうな・・・。)


続いて、そんな思いが浮かぶ。それに怯む気持ちが全くないわけではないが、でもその時間の中に氷室のバディとして、彼と一緒に飛び込んで行く覚悟を、七瀬はこの2ヶ月の間に培って来たつもりだった。


(どこまで専務、ううん副社長のお役に立てるかはわからない。でも、とにかく全力で務める、絶対に悔いだけはないように・・・。)


七瀬は、改めてそんな思いを強く抱いていた。


昼食休憩を挟んで、午後はふたりの副社長秘書との引継ぎ。女性が圧倒的に多いプライムシステムズ秘書課だが、第一副社長秘書の後藤田(ごとうだ)と第二副社長秘書の宇野(うの)は、いずれも40代の男性だった。


「すっかり様変わりしたね。なんか野心に燃える若き副社長のオフィスっていう空気が漲ってるよ。」


今や古巣となったオフィスを見まわしながら、後藤田が席に着く。


「そうですか?」


まだ主である氷室も来てないのにと、実感の湧かない七瀬が、首をひねると


「いや、本当さ。住人がくたびれた中年のおっさんふたりから、これからのウチの会社を担う若きカップルに代わったんだから、変わらない方がおかしい。」


今度は宇野が笑いながら言う。


「別に私たち、カップルじゃ・・・。」


揶揄われたような気がして、思わず七瀬がやや語気鋭く言うと


「深い意味はないよ。若い男女ペアという意味で、カップルって言ったんだ。気を悪くしたなら、済まなかった。」


宇野はやや慌てて頭を下げた。
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