Restart~あなたが好きだから~
「田中くん。」


「は、はい。」


「はっきり言って君は教育担当に恵まれてなかったから、出来ないことが多いのは仕方ないと思う。」


「い、いえ。そんなことは・・・。」


さすがにその言い草は、若林に失礼ではと、焦る田中に


「でもそんな自分を成長させる為の意欲や努力を見せないのは、私許せないな。」


七瀬は決めつけるように言う。


「すみません・・・。」


「今回のことは、もうこれ以上は何も言わないけど、今度こんないい加減な仕事したら、絶対に許さないからね。いい?」


「はい・・・。」


「とにかく田中くんには、これからはさきほど課長が言われた通り、私に付いて、みっちり勉強してもらうよ。その方が君の為になると思うから。厳しく行くから、覚悟してよ。」


「わかりました。」


チラリと横目で若林に視線を送りながら、田中は頷いた。


「そういうことで、じゃよろしくね。」


そう言い終わると、七瀬は何事もなかったかのように、自分の仕事を始める。その様子に圧されるように、他の社員たちも仕事に戻るが、そんな中、完全に顔を潰された形の若林だけが、憤怒の表情を隠すことなく、七瀬を睨み付けていた。


そしてその夜、仕事帰りに、何人かを引き連れ、飲みに繰り出した彼は


「あの女、何様のつもりか知らねぇが、言いたい放題に・・・ふざけやがって!」


当然荒れた。


「だいたい、今回の田中に対するアイツの言動は、ありゃはっきり言ってパワハラだぞ、いやロジハラか?みんなもそう思うだろ?」


「そうですね。」


「あんな言い方されたら、部下は力を発揮するどころか、ますます委縮するだけじゃねぇか。なぁ、田中。」


「はぁ・・・。」


まくし立てる若林の横で、大人しく呑んでいた田中は、いきなり自分に同意を求められて、曖昧に頷く。


「田中、お前のことは俺が守る。みんなのことも、いずれ藤堂を蹴落として、俺が主任になって守ってやるから。それまで辛抱してくれよな!」


若林は同期の七瀬に後れを取り、彼女の部下になっている現状に憤懣やるかたないものを感じているようだった。更にかつて、彼女に言い寄り、手酷く振られたことを逆恨みしているとも言われていた。


若林がそれらのウップンをこういう場で発散するのは、決して珍しいことではなかった。また始まったと冷ややかに見つめる周囲にも気付かず


(多少仕事が出来るのかもしれねぇが、こんな傍若無人な態度ばかりとってれば、あんな可愛げも何もない女に付いて行く奴なんて誰もいなくなる。そのうち、部下から総スカン食って、ここにも居られなくなる。デカい顔してられるのも今の内だ。とにかく、今回はこのままじゃ済ませねぇからな、藤堂・・・。)


若林は怒りの炎を燃やしていた。
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