Restart~あなたが好きだから~
「ところで、新旧副社長の引継ぎは、昼食を挟んで、まだ続いているそうだ。」


やや気まずくなった空気を変えようと、後藤田が口を開く。


「えっ、そうなんですか?」


驚く七瀬に


「うん、お蔭で午後のスケジュ-ルに多少支障が出ててね。とは言っても、こちらは退任する身だから、なんとでもなるが、専務の方は大丈夫なのかい?」


後藤田は尋ねる。


「はい。今日は引越しの跡片付けもあるだろうからと、夜にお取引先との会食の予定があるだけですから。」


「そうか、それならよかった。」


「まぁ我々の主たちには書類に残せない、我々が関知できないような機微に関わる申し送りもあるだろうからな。時間が掛かっても仕方ないよ。」


「確かにな。」


「ということで、ご当人たちがそんな念入りにやってくれてるなら、我々秘書の引継ぎは、あくまで事務的に簡単でいいだろう。ま、肩の力を抜いてやろう。ということで、藤堂さん、よろしく。」


後藤田と宇野は笑いながら言う。えっ、そんなんでいいの?と七瀬は思ったが、実際、副社長秘書と専務秘書の職掌の違いはあるにしても、仕える上司が変わるわけではないし、2ヶ月前のあの右も左もわからないような状況とも全然違っていたから、話はスム-ズに進んで行き


「最後になりますが、今回の人事で副社長が氷室現専務おひとりになるので、これまでの副社長業務の一部は新専務に担っていただくことになるので、それについては我々の方で、責任を持って、新専務のスタッフにお話ししておくので、ご心配なく。」


と後藤田が言い


「よろしくお願いします。」


それに七瀬が頭を下げて、話は終わり、あとはお茶を飲みながらの雑談となった。


「俺も藤堂さんと同じように入社以来、営業畑でやって来たのに、ある日突然秘書課に引っ張られて、気が付けば、秘書生活が営業マン生活より遥かに長くなってしまった。でもこれで秘書稼業も卒業だ。」


と言い出したのは宇野。彼は今回の人事異動で、秘書課を離れ、総務課に異動することになっていた。


「俺たちはほぼ同時期に秘書課に異動になったんだよ。それまでとは全く違う畑に放り込まれて、目を白黒させながら、お互い励まし合ったり、愚痴をこぼし合ったりしたもんだよな。」


「おふたりのお気持ちは、よくわかります。」


後藤田の言葉に、七瀬も思わずそう言っていた。
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