Restart~あなたが好きだから~
翌朝、出勤した七瀬は、一瞬驚いた。氷室が既に出勤していたからだ。


「おはようございます、今朝は随分お早いですね。」


日頃、七瀬に早出を諫め、自らも定時出勤のスタイルを崩さない氷室にしては、珍しいことだ。


「昨日、デスクの整理が結局終わらなくてな。」


「そうだったんですか。それでは、いつもより少し早いですが、本日のスケジュ-ル確認を始めてよろしいですか?」


「ああ。」


こうして、朝一恒例のスケジュ-ル確認を始めた七瀬だったが、彼女の言葉に「ああ」とか「うん」とか返事をする氷室の声音と態度は、なぜか明らかに不機嫌で


(どうしたんだろう、専務。何かあったのかな・・・?)


七瀬の内心の疑問はますます膨らんで行く。氷室の秘書になって2ヶ月、厳しい態度で叱責や指導を受けたことはあったが、それとは全く異質の苛立ちを彼から感じるのは初めてだった。


正直戸惑いを覚えたが、それでも氷室も人間なのだから、そういうことがあっても不思議はないと思い直して、話を続けた七瀬は


「そして夜は、副社長おふたりとの最後のご会食となります。」


と告げ


「それでは、本日もよろしくお願いいたします。」


一礼して下がろうとしたが


「お前の今夜のスケジュ-ルは?」


厳しい声で氷室が尋ねて来る。予想外の問いに戸惑いながら


「事前にお伺いした時に、秘書の同席は必要ないとのことでしたので、昨日とは別の友人と約束を・・・。」


と答えると


「キャンセルしろ。」


被せるように言われて、七瀬はびっくりして、氷室の顔を見る。


「副社長たちとの会食は、昼食時に変更してもらった。だから今夜は俺に付き合え、いいな。」


「専務・・・。」


有無を言わさぬようなその口調に、息を呑んだ様に固まる七瀬に構うことなく、氷室はパソコンに目を落とした。


(一体、どうしたって言うんだろう・・・?)


これ以上、取り付く島もないという氷室の様子に、仕方なくそのまま下がって来た七瀬は、デスクに着くと思わずため息をついた。今夜予定されていた副社長たちとの席は、退任する2人の慰労が目的だった。


(それをいきなり当日にランチ会食に変更するのは、失礼だよね。まして、引継ぎを兼ねてとは言え、ランチなら昨日も一緒に摂っているんだし・・・。)


七瀬は思ってしまう。
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