Restart~あなたが好きだから~
「ア~ァ。」


同じころ、七瀬も大きくため息を吐いていた。彼女は仕事終わりのあとのひとときを、美味しいイタリアンを食べさせる居酒屋の個室で、大学時代の同期でクラスやサークルも一緒だった山村沙耶(やまむらさや)と一緒に過ごしていた。


「どうしたの、急に?」


「どうせ、今頃みんな、また私の悪口で盛り上がってるんだろうなぁって思ってさ。」


そう言った七瀬は、グイッとビールの入ったコップをあおる。


「今更気にしてんだ、そんなこと?」


揶揄うように言う沙耶に


「気にするに決まってるじゃない。沙耶は私をなんだと思ってるのよ。」


むくれながら七瀬は言う。


「うん?上司にも部下にも容赦ないバリキャリ主任。」


「だからさぁ、そのバリキャリって言葉もおかしいんだよ。女が仕事を頑張っているとそんな形容詞付けられて、男にはそんなことないじゃない。完全な差別だよ。」


「はいはい、それはごめんね。同性として軽率でした。」


早くも悪酔い気味の友人に、あえて逆らわず、沙耶は軽く頭を下げる。


「それに私はバリキャリになりたかったわけじゃない、結果としてバリキャリになっちゃったんだよ。沙耶だって知ってるでしょ!」


「声が少し大きい。」


「いいじゃない、個室なんだから。誰にも迷惑掛かってないでしょ?」


私に迷惑が掛かってるって、沙耶は思ったが、それを口にすることはなかった。そんなことをすれば、火に油を注ぐだけとわかっているからだ。


七瀬と沙耶は、就職先は別だが、勤務先が近く、こうして会う機会は今も多い。仕事の上では、一分の隙も見せない七瀬だったが、一歩オフィスを離れ、周囲に同僚や部下たちの姿が見えなくなった途端、特に彼女にとっては、唯一無二の親友である沙耶の前では、全く別の顔を見せる。


「わかってるんだよ、私。田中くんに酷いことしたって。あんなやり方されたら、彼だって傷付くのが当たり前だし、私に反発を覚えるだけだって。それに彼が私に相談をしてこなかったのも、私が彼に近寄り難さを感じさせちゃってるから。全部、私が悪いの。私は上司失格なんだよ。」


今度は、一転自己批判を始めて、落ち込む七瀬を


「ううん、そんなことない。七瀬は上長として、当然のことをしたの。人に嫌われるのは辛いだろうけど、でもそれが七瀬の役割なんだから。いつか、その部下の人だって、ちゃんとわかってくれる日が来るって。」


沙耶は慰めるように言う。
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