Restart~あなたが好きだから~
少し和み掛けた雰囲気が再び重くなってしまったまま、食事を終えた2人。レストランを出ると、氷室は七瀬を同じ階に併設されているスカイデッキに誘った。


そこは、外に出られる屋外展望台となっていて、ガラスに遮られることなく絶景の夜景が楽しめる場所だったが、一応肩を並べて歩く2人の空気はなんとも気まずいもので、正直七瀬としては早く解放されたかったが、といってそれなりのディナ-をご馳走になっている以上、じゃ私はこれでとは、さすがに言い出せるはずもなかった。


黙って歩を進めていた氷室が、ふと足を止めると、向かいに立つビルを見やるように立った。自然、七瀬もその横に並ぶように立つ。


「昨夜の取引先との会食は、あのビルのレストランだった。相手側の招待だったから、当然場所は相手が決めた。俺が昨日、あそこにいたのは偶然に過ぎない。会食を終えて、取引先と別れて歩き出した俺は、思わず目を疑う光景を目にした。このホテルから、七瀬が男と仲睦まじく、肩を並べて出てくるのを。」


「えっ?」


驚いて、七瀬が横を見ると、厳しい表情で氷室がこちらを見ている。思わず息を呑むと


「あの男は誰だ?」


鋭い口調で問われる。咄嗟に答えられずにいると


「答えろ、七瀬!」


追い打ちを掛けられ


「幼なじみ、です。実家が隣同士で、昨日は誕生日を祝ってもらったんです。」


なんでこんな問い詰められるような感じになってるのと、疑問と反発を覚えながら七瀬は答える。


「好きなのか?」


「氷室さん・・・。」


「あの男のことを好きなのかと聞いてるんだ。」


更に詰め寄られ


「そんなこと、氷室さんにお答えする必要はないと思います。」


とうとう言い返すように答える七瀬。いつの間にか、見つめ合うというよりにらみ合うように向かい合っている2人。そして、次に口を開いたのは氷室だった。


「迂闊だったな、いや油断していた。」


「えっ?」


「恋愛に興味がないなんていうお前の言葉に鵜呑みにしていたのが。」


「氷室さん・・・。」


戸惑いの言葉を上げた次の瞬間、強い力で抱き寄せられた七瀬は、抵抗する暇もなく、氷室の腕の閉じ込められる。


「な、なにを・・・。」


するの、と紡ぎかけた言葉は途切れる。その言葉を続けようとした唇を強引に塞がれてしまったからだ。驚いて身体を離そうとするが、ビクともしない相手の力に、やがて七瀬が諦めてしまうと、男の舌が口の中に侵入して来る。ハッとした七瀬は、しかしそのままなぜか受け入れてしまっていた・・・。
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