Restart~あなたが好きだから~
ビーエイトには、営業部時代に何度も通った七瀬だが、秘書として訪れるのは初めて。副社長室に通されるのも初めてだ。


待つこと数分。


「お待たせいたしました。」


ジューシィなピンクニットに黒タイトスカートを合わせた、大人びたイメ-ジを纏って、姿を現したのは貴島愛奈(きじままな)、今日面会して来た副社長の中では唯一の圭吾より年下、そして女性だった。


(綺麗な人だな・・・。)


七瀬は愛奈を見て思う。かつての担当として、当然彼女の存在は知っていたし、姿を見かけたこともあったが、実際に間近に接するのは初めてだった。


にこやかな笑顔をたたえて、七瀬たちの前に立った愛奈に


「氷室です。この度、弊社の副社長に就任しました。今後ともよろしくお願いします。」


そう言って、型通り名刺を差し出した圭吾は、彼女に一礼する。


「副社長就任、おめでとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。どうぞ、お掛けください。」


その言葉で、3人が腰を下ろすと、それを見計らったように恐らく愛奈の秘書であろう女性が姿を現し、彼らの前にお茶を出す。


「ありがとうございます。」


自分の前にお茶が置かれ、七瀬がお礼を言うと、秘書は笑顔を返すと


「失礼します。」


と言って、そのまま愛奈の横に腰かけた。


「私の秘書の貴島奈穂(きじまなほ)です。」


「貴島・・・?」


思わず七瀬が反応すると


「お察しの通り、私の2歳下の妹です。今は私に付いて、諸事勉強中です。」


愛奈が紹介する。


「副社長秘書の貴島奈穂です。」


「ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。氷室の秘書の藤堂七瀬です。」


奈穂に先に挨拶され、七瀬も慌てて自己紹介をし、頭を下げる。


「初対面でいきなり失礼だけど、藤堂さんはおいくつ?」


「はい。先日、26歳になりました。」


「そう。じゃ、奈穂と同い年ね。いろいろ教えてあげて下さいね。」


「いえいえ、とんでもございません。私もまだ新米秘書なんで。」


「ううん。藤堂さんの優秀さはかねて、営業部から聞いてますし、今回も先輩に見初められて、秘書に抜擢されたんですよね?」


「は、はぁ・・・。」



「だったら、奈穂にはいいお手本になるはずです。私も妹をわざわざ秘書にした理由は先輩と同じなんで。」


「えっ?」


「妹には、将来私が父からこの会社を受け継いだ時に、バディになってもらえるようにって。」


そう言って、愛奈は七瀬に微笑んだ。
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