Restart~あなたが好きだから~
「あの・・・先ほどから副社長は、氷室のことを先輩って・・・?」


一方の七瀬は、気になっていることを尋ねる。すると、愛奈は意外だという表情になり


「あれ?先輩はまだ私たちのことを、藤堂さんに話してないんですか?」


と言って、圭吾を見る。


「そうだ、まだ言ってなかった。貴島・・・さんは俺の大学時代の2年後輩でな。ゼミが一緒だったんだ。」


しまったと言わんばかりに、後頭部に思わず手をやりながら、圭吾が言う。


「別に今は他に誰もいないんだから、普段通り呼び捨てでいいじゃないですか?だいたいさっきだって、なんか他人行儀に挨拶して来るから、私、吹き出すのを堪えるのに必死だったんですから。」


「そりゃ、親しき仲にも礼儀ありだろ。貴島は大学時代から優秀でな。是非ともウチの会社にと誘ったら、『大変光栄なお話ですが、私、いずれ父の会社を継がなきゃいけないんで』って言われてな。知らぬこととは言え、大変失礼なことを申しましたと平身低頭したよ。」


圭吾は苦笑いで言う。


「俺の妻にとおっしゃってもらってたら、喜んで『是非お願いします。』ってお答えしたんだけど。」


それに対して、冗談めかした口調で愛奈が返し、座は一気にくだけた感じになり、七瀬が内心驚いていたが


「七瀬。」


と呼び掛けて来た圭吾の表情は、真剣なものになっていて、七瀬は思わずハッと彼の顔を見る。


「知っての通り、ビーエイトさんとは、現在極秘プロジェクトが進行中だ。今の俺にとって、こちらは最重要のお取引先になる。」


「はい。」


「今回のことは俺と貴島の長年の人間関係があればこそ、実現することになった。これまでは副社長と専務ということで、なかなか対等にというか、直接彼女と話が出来なかった面があったんだが、それもクリアになった。これからは我々の間のコミュニケ-ションも一層密にしていかなくてはならない。秘書である七瀬と奈穂さんにも、当然その一翼を担ってもらわなくてならない。今日はそれをお前に知ってもらいたくて、貴島に時間を取ってもらったんだ。」


「そうだったんですか。」


「それにもう1つ。このプロジェクトははっきり言って、会社の正規のル-トを通していない。専務として進めて来たものであれば、俺が副社長になった時点で、後任に引き継ぐべきものだが、これはあくまで俺が独自に進めて来たものだ。だから引継ぎもしてないし、親父にも報告していない。」


「それは伺ってます。」


七瀬は緊張の表情で頷いた。
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