Restart~あなたが好きだから~
それから数日後、七瀬は延期になっていた誕生祝いをしてもらう為に、沙耶に会った。


「へぇ。なんか知らない間に、劇的な進行があったんだねぇ。」


いろいろと報告すると、親友は興味津々とばかりに食いついて来る。


「別に、劇的ってほどじゃ・・・。」


「劇的じゃない。だって、幼なじみくん一筋、彼を忘れられずに、恋愛嫌いを装って来たはずの七瀬が、突然下心を露にした上司に迫られた途端に、ちょろくも動揺してるんだから。」


「ちょっと、ちょろいって言わないでよ。」


揶揄うような親友の言葉に、思わず反論する七瀬。実は自分でもそう思っているのだが、人に改めて指摘されると、やはり気分のいいものではなかった。


「その上、その上司の大学時代の後輩でもある、どこぞの企業の御令嬢なんてライバルまで登場して来て・・・最高の展開じゃない!」


そう言って、目をらんらんと輝かせる沙耶。


「沙耶、完全に楽しんでる。」


「もちろん。こんな美味し過ぎる展開が身近で起こるなんて、なかなかないことだからねぇ。」


そう言って、顔をニヤつかせている沙耶に腹が立って来て


「もういい、帰る!」


七瀬は憤然と席を立とうとするが


「まぁまぁ。楽しませてもらってる代わりに、ちゃんと相談には乗るからさ。七瀬が好きな料理も、こうして並んでいることだし、取り敢えず、26歳のバースディ、おめでとう。かんぱ~い。」


沙耶はなだめるように言うと、グラスを上げる。確かに目の前に並ぶ料理は魅力的で、結局


(私って、本当にちょろいな・・・。)


心の中で自嘲しながら、七瀬は親友の祝福を受け取ってしまう。


「それで、まず上司の口説きはどうするの?受け入れるの?」


ワインを口に運びながら、尋ねて来る沙耶。


「副社長から告白されて、心が揺れてるのは確か。今まで、誰にアタックされても、全然動じることなんてなかったのにな・・・。」


「別にそれって悪いことじゃないでしょ?だって七瀬は幼なじみくんと付き合ってたわけじゃない、ただ一方的に片思いを拗らせてただけなんだから。」


「それはそうだけど・・・。」


「ひょっとしたら、その片思いが成就する可能性が出て来た途端のこの展開は、皮肉と言えば皮肉だけど、でも七瀬はまだ幼なじみくんに告白したわけでもなければ、告白されたわけでもないんだからさ。副社長に惹かれている今の自分の気持ちに素直になればいいじゃない。」


沙耶は言い聞かせるように言うが


「そんな簡単な話じゃないよ。」


七瀬は首を振る。
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