Restart~あなたが好きだから~
翌日。この日も朝から圭吾が不在の副社長室を守っていた七瀬だったが、夕方近くなり、自席のパソコンを閉じると、秘書課のオフィスに向かい


「課長、これよりビーエイト様に行って参ります。」


と秘書課長に報告する。


「わかりました。で、副社長のお戻りは何時くらいになりそうなの?」


「17時くらいになると思います。私の方は、打ち合わせが終わり次第、ご連絡は入れますが、基本的には今日はそのまま直帰させていただくことになると思いますので、よろしくお願いします。」


そう言って、オフィスを出た七瀬がエレベ-タ-を降り、通用口に向かうと


「お待たせ、行こう。」


と待っていた社員に声を掛けた。


「はい、よろしくお願いします。」


一礼して、彼女の後に付いて歩き出したのは田中瑛太だった。七瀬が営業部を去った後、ビーエイトの担当になっていた田中は、上司の若林と共に圭吾の密命を受けて、極秘プロジェクトに関わって来たが、このところは若林が体よく、プロジェクトから棚上げされた形になって、かつてのように七瀬に付いて動くようになっていた。


移動の電車の中で、簡単な打ち合わせを済ませた2人が、ビーエイトに着いたのは、約40分後。待ち構えていた担当者と、挨拶もそこそこに、この日の打ち合わせに入る。


当時専務だった圭吾が、旧知であるビーエイトの副社長貴島愛奈に持ち掛けてスタートした極秘プロジェクト。それはビーエイトの現在のシステムを全面改定し、最新のそれにバージョンアップすることだった。


両社の技術陣が、全面的に協力し、開発した新システムを、他社にも売り込み、シェアを拡大して行くということは、当然のことながら、プライムシステムズ、ビーエイト双方にメリットがあった。またそれが成功すれば、プライムシステムズでは、会田専務の牙城とされて来たソフトウェア部門(第二営業部)に切り込み、彼を出し抜くような形で実績を上げることによって、次期社長の座を巡ってライバル関係にある専務を完全に突き放すことが出来る。それが、圭吾の狙いだった。


社内にも気付かれることなく、両社の営業部と技術陣のコミュニケーションを密にして、プロジェクトを進めるのは、相当の難題だったが、それだけに元第二営業部の敏腕主任であり、現在は圭吾のバディたる秘書を務める七瀬の存在感は大きくなっていた。
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