Restart~あなたが好きだから~
ミーティングでは、これまで順調と思われて来た作業スケジュ-ルに遅れが生じて来ていることが報告された。


「大丈夫ですか?原因はどこにあるんですか?」


技術陣に遠慮なく斬り込んで、その原因を探り、対策にも言及していく七瀬の横に控えながら


(藤堂さんはやっぱり凄い。申し訳ないけど、この役は若林さんじゃ荷が重過ぎたよな・・・。)


田中は舌を巻いていた。少しして、話が一段落すると


「田中くん、後はお願いね。」


と言って、田中に後を任せると、七瀬は席を立ち、副社長室に向かった。状況を愛奈の耳に入れる必要性を感じたからだ。


「失礼します。」


中に入ると


「あ、七瀬。ご苦労さま。」


笑顔で彼女を迎えたのは貴島奈穂、姉である愛奈副社長の秘書である。


「奈穂、お疲れ様。」


と答えた七瀬の表情は固い。たまたま同年だった2人は、今では名前で呼び合うほどの親しい間柄になっていたが


「お姉ちゃん、お待ちかねだよ。」


「そう。じゃ、早速失礼するね。」


七瀬の表情に、何事か問題が起こったことを察した奈穂は、すぐに彼女を伴って、副社長執務室に入った。


「貴島副社長、お待たせしまして、申し訳ございませんでした。」


そう言って、頭を下げる七瀬に


「ううん。こちらこそ、本当は自分の部下から報告受けるべきなんだけど、はっきり言って、あなたから聞いた方が間違いないからね。」


悪びれない笑顔で愛奈は言う。


「恐れ入ります。」


と頭を下げた七瀬は、先ほどのミ-ティングの内容を愛奈に報告し始めるが、


「最終的な納期が、どんどん後ろにずれて行くようじゃ困るわよ。藤堂さん。」


やがて、愛奈は厳しい表情になる。


「プライムシステムズさんにとっては、新システムを引っ提げて、バンバン売り込みを掛けられれば、それでいいんでしょうけど、こちらはあくまで、自社の為のバージョンアップが第一義なんだから。少しでも早く実用化出来なきゃ、メリットが薄くなる一方よ。」


「はい。」


「先輩のお役には立ちたいけど、自社を犠牲にしてまで、お付き合いは出来ないからね。」


厳しい口調で続ける愛奈に


「ウインウインでなければ、今回のコラボが成り立たないことはもちろん承知しております。私の見る限り、今回の事態は両社の技術陣の相互不信が大きな原因の1つです。私からも氷室に申しますが、一度両副社長が技術陣のトップとキチンと腹を割って、お話しいただく機会を早急に設けるべきかと思います。」


七瀬は提言する。
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