Restart~あなたが好きだから~
「全然、そんな雰囲気なかったじゃない?」


「はい、きっかけは藤堂さんです。」


「えっ、私?」


またまた七瀬は驚かされる。


「主任が俺を鍛えるって、言ってくれた時、周りは大変だなって同情してくれましたが、俺は嬉しかったんです。俺、主任に見限られてなかったんだって。だから、絶対に食らいついて行こうって思ってました。でも、例のパワハラ騒動があった後は、主任に誤解されて、遠ざけられてしまって・・・。」


「ごめん・・・。」


「悔しかったです、でもそれは主任に誤解されたからじゃない。主任に付いて、いろいろ学んでいけるはずの時間が、唐突に、そして中途半端に終わってしまったからです。主任との最後の時間を小野さんに取られてしまったからです。」


「田中くん・・・。」


「だから、俺は小野さんに聞きに行った。君は主任に最後に何を教わったんだ、どんな話を聞いたんだって?本当なら俺が教わるはずだったことを、聞くはずだった言葉を小野さんから聞こうと思ったんです。最初は『何なの?』って感じでウザがられましたけど、だんだん小野さんも俺の気持ちをわかってくれて、何度か会って話してるうちに、その・・・。」


「そういう雰囲気になっちゃったってこと?」


「はい。」


田中はコクリと頷くと、照れ臭そうに下を向いた。


「じゃ、本当に私がキュ-ピットなんだ。なのに、今まで何の報告もお礼もないって、どういうこと?」


「すみません・・・。」


七瀬に睨まれて、申し訳なさそうに頭を下げる田中。その姿にプッと吹き出して


「ウソウソ、冗談だよ。」


七瀬は笑顔を浮かべる。


「主任・・・。」


「だからもう主任じゃないって。」


「はい、すみません。」


(もう・・・。)


なんともチグハグというか珍妙なやり取りが続いて、思わず七瀬は苦笑いになったが


「でも、考えてみれば田中くんと小野さん、お似合いだよね。」


気を取り直して言う。すると


「いえ、藤堂さんと副社長ほどじゃありません。」


「えっ?」


思わぬ返しが来て、七瀬はハッと田中を見る。


「恋愛に興味がないっておっしゃってましたけど、あれは俺を傷付けないように、おっしゃったんですよね。知らぬこととは言え、俺、未来の副社長・・・いえ社長夫人に告白しちゃってたんですね。身の程を弁えないことをしちゃいました。」


「田中くん・・・。」


その田中の言葉に、七瀬は言葉を失っていた。
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