Restart~あなたが好きだから~
なんとも気まずい雰囲気のまま、車を降りた七瀬が改札口に向かって歩を進めていると、スマホが鳴り出す。立ち止まって、相手を確認して


「はい、お疲れ様です。」


と電話に出ると


『今、どこだ?』


圭吾の声が響いて来る。


「さっきまで、奈穂さんと食事をしていて、今は駅にいます。」


『なら、彼女から今夜のことは聞いてるな?』


「はい。」


『お陰様でうまく行った、七瀬がいろいろ動いてくれたお陰だ。貴島もお前に感謝してたぞ。』


「いえ・・・。」


圭吾の言葉を、七瀬が複雑な思いで聞いていると


『これで今度こそ、プロジェクトも円滑に動き出すだろう。そろそろ親父に報告するタイミングも考えないとな。じゃ、気をつけて帰れよ。また明日だ。』


圭吾が会話を終えようとするから


「あの。」


七瀬が声を上げる。


『なんだ?』


「もう・・・愛奈さんとご一緒じゃなんですか?」


貴島さんでも副社長でもなく、あえて「愛奈さん」と七瀬は言った。


『ああ、あんまり遅くなると俺も彼女も明日に差し支えが出るからな。』


と答える圭吾の口調には、当然と言わんばかりの響きがあった。


「・・・そうですね、では失礼します。」


七瀬は通話を終える。


『だったら、なんでいつまでもはっきりしないの?あなたに昔から好きな人がいるのは聞いた。その人が忘れられないから、氷室さんの思いが受け入れられないって言うならまだわかる。でも、氷室さんには煮え切らない態度で、そのくせお姉ちゃんが氷室さんに接近しようとすると、嫉妬して・・・そんなの最低だよ!』


別れ際に浴びせられた奈穂の言葉が甦って来る。


(そうだよね、最低、だよね、私・・・。)


本当は知ってることをあえて尋ねて、圭吾の気持ちを確認した自分が嫌になり、七瀬は心の中で自嘲していた。


それから。次の日も、その次の日も、七瀬は圭吾の求める、あるいはそれ以上の優秀な秘書、そしてバディであり続けた。


そして・・・。


「お時間をいただけませんでしょうか?」


固い表情で、七瀬が圭吾に切り出したのは、週末を明日に控えたという日の定時が過ぎた後だった。


この日、夜に予定されていたある取引先との会合が、先方の都合で急遽キャンセルになった。スケジュールが突如空き、早速圭吾は七瀬を誘ったが、彼女は頷かなかった。
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