Restart~あなたが好きだから~
③
そして、七瀬は久しぶりに実家の最寄り駅に降り立っていた。
(帰って来ちゃった・・・。)
今の住まいからせいぜい2時間弱。その気になれば、なんてことのない帰省を七瀬は避け続けている。理由は簡単、楽しくないから。はっきり言って苦痛なのだ。今日も本当ならもっと早く来られていた、いや昨日仕事が終わってから直接帰って来ることも可能だった。が、土曜出勤とウソまでついて、そうしなかったのは、ひとえに実家滞在時間を少しでも短くしたい一心からだった。
重い気分を奮い立たせて歩き出した七瀬だったが、少しするとハッとしたように足を止めると、慌てて物陰に隠れる。そこからそっと窺うように向けた彼女の視線の先には一組のカップルが。
(ウソでしょう、なんでよりによって・・・。)
その全く嬉しくない偶然を七瀬が嘆いていると、彼らは周囲の目を気にすることも、彼女に気付くこともなく、仲睦まじく寄り添いながら、改札口を出ると、七瀬が向かおうとしている出口とは反対の方向に歩いて行く。そのことにホッとしながら、七瀬は急ぎ足で改札を出た。
20分程で到着した実家の門の前で、七瀬は思わず1つため息をついたが、ぐずぐずしているとここでさっきの彼らに出くわしてしまいかねない。七瀬は玄関を開けた。
「ただいま。」
「お帰り。お疲れ、姉ちゃん。」
出迎えてくれたのは、4つ年下の弟の章。大学4年生で、現在就職活動の真っ最中だ。
「あれ?今日仕事って聞いてたけど、違ったの?」
ビジネスウェアではない姉を見て、章は尋ねて来るが
「こっちに帰って来てまで、仕事引き摺りたくないから一回帰って、着換えてから来たのよ。」
もっともらしい答えで誤魔化す。
「そうなんだ、じゃ大変だったね。でもさ、ずっと仕事忙しいって言ってるけど、姉ちゃんの会社、休日出勤結構あるの?」
「まぁね。」
「そっか。でもさ、それってブラックだよな。俺はそういう会社に勤めたくねぇなぁ。」
「それは人それぞれの捉え方だからね。私は今の状況に十分、やり甲斐を感じてるから。」
確かに仕事は忙しいが、本当は休日出勤はほぼない。でもその現実を実家の人間に知られたくないから、七瀬はそんな答えをした。
「そういうあんたの就職活動はどうなの?」
「まぁ頑張ってるよ。大和さんにも、いろいろ相談に乗ってもらってるし。」
(大和・・・。)
弟の口から出たその名前を聞いて、心にズキリとした痛みを感じながら、七瀬はダイニングに入った。
「ただいま。」
すると
「お帰り。随分遅かったじゃない?」
待ちかねたと言わんばかりに表情で、こちらを見る両親の顔が。
「仕方ないでしょ?仕事だったんだから。」
「仕事、仕事って言うけど、そればかりにかまけちゃ、困るのよ。」
(かまけてって・・・。)
母の言い草に、思わずカチンと来るが、でも考えてみれば、今日の「休日出勤」はウソだったことを思い出して、七瀬はとりあえず、黙って席に着いた。
(帰って来ちゃった・・・。)
今の住まいからせいぜい2時間弱。その気になれば、なんてことのない帰省を七瀬は避け続けている。理由は簡単、楽しくないから。はっきり言って苦痛なのだ。今日も本当ならもっと早く来られていた、いや昨日仕事が終わってから直接帰って来ることも可能だった。が、土曜出勤とウソまでついて、そうしなかったのは、ひとえに実家滞在時間を少しでも短くしたい一心からだった。
重い気分を奮い立たせて歩き出した七瀬だったが、少しするとハッとしたように足を止めると、慌てて物陰に隠れる。そこからそっと窺うように向けた彼女の視線の先には一組のカップルが。
(ウソでしょう、なんでよりによって・・・。)
その全く嬉しくない偶然を七瀬が嘆いていると、彼らは周囲の目を気にすることも、彼女に気付くこともなく、仲睦まじく寄り添いながら、改札口を出ると、七瀬が向かおうとしている出口とは反対の方向に歩いて行く。そのことにホッとしながら、七瀬は急ぎ足で改札を出た。
20分程で到着した実家の門の前で、七瀬は思わず1つため息をついたが、ぐずぐずしているとここでさっきの彼らに出くわしてしまいかねない。七瀬は玄関を開けた。
「ただいま。」
「お帰り。お疲れ、姉ちゃん。」
出迎えてくれたのは、4つ年下の弟の章。大学4年生で、現在就職活動の真っ最中だ。
「あれ?今日仕事って聞いてたけど、違ったの?」
ビジネスウェアではない姉を見て、章は尋ねて来るが
「こっちに帰って来てまで、仕事引き摺りたくないから一回帰って、着換えてから来たのよ。」
もっともらしい答えで誤魔化す。
「そうなんだ、じゃ大変だったね。でもさ、ずっと仕事忙しいって言ってるけど、姉ちゃんの会社、休日出勤結構あるの?」
「まぁね。」
「そっか。でもさ、それってブラックだよな。俺はそういう会社に勤めたくねぇなぁ。」
「それは人それぞれの捉え方だからね。私は今の状況に十分、やり甲斐を感じてるから。」
確かに仕事は忙しいが、本当は休日出勤はほぼない。でもその現実を実家の人間に知られたくないから、七瀬はそんな答えをした。
「そういうあんたの就職活動はどうなの?」
「まぁ頑張ってるよ。大和さんにも、いろいろ相談に乗ってもらってるし。」
(大和・・・。)
弟の口から出たその名前を聞いて、心にズキリとした痛みを感じながら、七瀬はダイニングに入った。
「ただいま。」
すると
「お帰り。随分遅かったじゃない?」
待ちかねたと言わんばかりに表情で、こちらを見る両親の顔が。
「仕方ないでしょ?仕事だったんだから。」
「仕事、仕事って言うけど、そればかりにかまけちゃ、困るのよ。」
(かまけてって・・・。)
母の言い草に、思わずカチンと来るが、でも考えてみれば、今日の「休日出勤」はウソだったことを思い出して、七瀬はとりあえず、黙って席に着いた。