Restart~あなたが好きだから~
七瀬が、次にビーエイトを訪れたのは、1週間後のことだった。


「失礼します。」


いつものように、打ち合わせを終えた後、七瀬は副社長室に入った。出迎えるのは秘書の奈穂だが、いつもなら人懐っこい笑顔で迎えてくれる彼女が、今日は七瀬の姿を見た途端に、プイと立ち上がると、そのまま部屋を出て行ってしまう。ふたりは先週の気まずさを引き摺ったままだった。奈穂の後ろ姿を見ながら、1つため息を吐いた七瀬は、それでも気を取り直したように、執務室にドアをノックして、中に入った。


「お疲れ様。」


愛奈はいつも通り、にこやかに七瀬を出迎えた。そして、ソファに腰かけ、プロジェクトの進捗状況と今日のミーティングの内容を報告する七瀬の言葉を黙って聞いていたが


「どうやら、もう大丈夫みたいね。」


最後にそう言って、大きく頷いた。


「はい。おふたりのお陰です。」


「このプロジェクトがポシャったら、本当に困るのは、私と先輩だもの。そりゃ必死だったわよ。」


そう言って笑顔を浮かべた愛奈につられたように、七瀬も笑顔になった。


「いつまでもコソコソやってるわけにはいかないし、そろそろ、社長の耳に入れても大丈夫そうね。もっとも『俺の了解もないままに、勝手なことを』って雷を落とされるのは間違いないんだけど。」


「そうなんですか?」


「現社長の子供で、後継者候補の副社長って意味では、私も先輩も立場は同じように見えるかもしれないけど、実情は全然違うよ。父がどこまで本気で私を後継者って思ってるかは、正直わからない。隠れて、私の婿探しをしてるみたいだし。社内の連中だって、内心じゃ『あんな小娘に何が出来る』って思ってるのが多いんだから。」


「えっ?」


「それが『娘』と『息子』の違いなんだよ。今どきって思われるだろうけど、そういう感覚って日本の企業じゃ、まだまだなかなか拭い去れない。」


「・・・。」


「だから、私は先輩の誘いに乗った。みんなを黙らせるには、実績を作るしかないからね。」


そう言って、愛奈は肩をすぼめて見せる。その仕草に思わず


「そのお気持ちは、副社長・・・氷室さんも同じです。」


「えっ?」


「氷室さんも同じ思いで、貴島さんを誘ったんです。男も女も関係ないんです、おふたりの置かれている境遇は同じなんですよ。」


七瀬はそう言って、愛奈を見た。。
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