Restart~あなたが好きだから~
「それに別に先輩はあなたが現れたから、私を見てくれなくなったわけじゃない。私はずっと相手にしてもらえなかったんだから。だから、あなたに身を引いてもらっても、それで先輩が私を見てくれる保障なんかない。悔しいけど、それが現実。さすがにこの齢になると、そのくらいの現状認識と感情のコントロ-ルは出来るようになっちゃう。だから嫌いなはずのあなたを『必要だ』って言えてしまう。」


そう言って、苦笑いを浮かべる愛奈。そんな彼女を七瀬は見つめ、愛奈もまた七瀬を見る。言葉が途切れ、少し重苦しい空気が流れる。


「貴島さん。」


それを振り払うように、声を上げたのは七瀬だった。


「先ほども申し上げた通り、私はこのプロジェクトの目途がつくまでは、氷室の下で精一杯務める覚悟です。ですので、少なくとも、貴島副社長にご迷惑をお掛けすることだけはないようにいたします。ですが、氷室・・・さんのお気持ちとご期待には沿えません。」


「藤堂さん・・・。」


「今度、彼に会って告ります。私はもう引き返すつもりはありません。」


七瀬はそう言い切った。決意に満ちたその表情を、愛奈はじっと見つめていたが


「先輩はそれを知ってるの?」


と尋ねる。


「先日申し上げました。」


それは半分は本当だが、半分はウソだった。確かに圭吾にノ-の返事はしたものの、俺は諦めが悪いと押し返され、そんな彼を完全に突き放すことが出来ないままになってしまっているのだから。


そして今、それを隠したまま、愛奈の前でその決意を改めて口にしたのは、自分を改めて叱咤するつもりともう1つ、それが愛奈の為だからと思ったからだったが


「でもさ、それであなたが彼に振られたら、どうするの?」


果たして、あの時の圭吾と同じ疑問をぶつけられ


「それでも氷室さんのお気持ちを受け取るつもりはありません。ですから・・・。」


答える七瀬に


「傲慢なのね、あなた。」


愛奈が厳しい言葉をぶつける。


「傲慢・・・。」


その言葉にハッと息を呑む七瀬の胸に


(私、前にも佐倉さんに同じ言葉を投げつけられたことがある・・・。)


苦い思い出がよぎる。
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