Restart~あなたが好きだから~
年が明けた。例年はお義理のように、大晦日元日を実家で過すだけの七瀬だったが、この年末年始は仕事納めの翌日には戻って来た。大和のことが心配で、少しでも励ましてやれればという思いからだったが、いざとなるとなかなか声を掛け辛いものだったし、大和の方も、彼女を避けてる気配が感じられ、結局虚しく日々を過ごして、2日の夕方には実家を後にした。


七瀬の顔を見れば、彼氏はどうした、結婚はどうするんだとやかましい母親が、さすがに大人しかったのだけが幸いだった。


翌3日は沙耶と待ち合わせて、初詣に出掛けた後、一緒に昼食を摂った。正式に婚約者となった恋人とは順調で、昨日一昨日は一緒に過ごしたことを問われるままに七瀬に報告した沙耶だったが、その後は表情を改め


「それにしても大変だったね、七瀬。」


と慰めの言葉を掛けた。


「私は別に大変でもなんでもなかったけど、まさかの展開に戸惑うというか、気持ちが付いて行けなかったのは確かだよね。」


七瀬はそう言うと、1つため息を吐いた。


「正直言えば、佐倉さんがいなくなってくれればいいのにって、何度思ったかわからないくらいだよ。でも現実に、こんなことになって、嬉しいなんて感情が湧いて来るわけないよ。本当に佐倉さんが可哀想だと思うし、嘆き悲しむ大和の姿は、やっぱり見るに忍びなかったよ。」


「そう、だよね・・・。」


久しぶりに会った2人だったが、なんとなく会話は弾まなかった。沈黙が流れ、黙々と箸を進め、飲み物を口にしていたが、やがて意を決したように、沙耶が口を開いた。


「それで・・・こんな時になんだけど、幼なじみくんとは今後どうしていくつもりなの?」


「一度、ちゃんと話をしなくちゃいけないのはわかってる。でもさ・・・。」


そう言って、一瞬躊躇ったように言葉を途切れさせた七瀬だったが


「佐倉さんには、やっぱり敵わないよ。」


すぐにため息交じりに、そう続けた。


「この一ヶ月ほどさ、遠目からだったけど、ふたりの様子を見ていて、大和と佐倉さんがどんなに愛し合っていたか、改めて思い知らされた。」


「・・・。」


「佐倉さんがどれだけ大和を愛していたか、大切に思っていたか、痛烈に思い知らされた。大和の幸せを誰よりも願い、でもそれが自分では叶えられないと知ったら、悪女を演じてまで、身を引こうとしたんだよ。同じ立場になった時、私が彼女と同じことが出来るか、全然自信ないよ。」


「・・・。」


「あの日、私と大和が一緒に佐倉さんに会いに行ったのは、たまたま会う約束をしてたから。でも、それを見た佐倉さんは本当に嬉しそうにこう言ったんだよ。『あなたたちが一緒の道を歩むことになって、本当によかった。これで私も安心だ。』って。あの時の佐倉さんの笑顔が忘れられない。そして、あの笑顔を見て、私は思い知らされたんだよ。私はこの子には絶対に勝てないって。」


「七瀬・・・。」


そしてまた、2人の間に沈黙が流れる。
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