Restart~あなたが好きだから~
1月という月は瞬く間に過ぎて行き、2月の声を聞いたこの日。圭吾と愛奈が主導し、進められてきた極秘プロジェクトの存在が、明らかになった。


この日、召集された臨時取締役会で、詳細が圭吾の口から報告されると、自らのお膝元のはずの営業部第二営業課で、全く与り知らないビッグプロジェクトが進行していたという事実に、会田専務・営業本部長の顔面が蒼白になった。


「ビーエイト様と共同開発した新システムはテストも終わり、まもなく正式に運用をスタ-トさせることが可能です。問題がなければ、各お取引先に大々的に売り込みを掛けられるだけのものだと自負しております。」


対照的に、自信満々の表情で報告を終えた圭吾は、会田を始めとした各取締役の顔をひとまわり見回すと、ゆっくり着席した。


「副社長、ご苦労だった。これだけのものをよく、これまで社内にも漏らすことなく推し進めて来たな。」


「はい。我が社のスタッフはもちろん、ビーエイト様のスタッフも寝食を忘れるような勢いで取り組んでくれました。感謝の思いしかありません。」


この後、他の取締役からも賞賛の声が続き、会田専務も


「この新システムの売り込みには、営業本部を挙げて、全力で取り組ませていただきます。」


と約束せざるを得なかった。


「よろしくお願いします。」


と言って、頭を下げた圭吾の表情には、余裕すら感じられた。


取締役会が終了すると、会田営業本部長は営業本部幹部をただちに召集。本日の会議の内容を伝達すると共に、この事態に、即応できる態勢を早急に整えるように指示を出した。


「参ったなぁ、俺たちは完全に埒外に置かれてたってことか。」


部屋に戻って来た営業部第二課長は、係長相手にぼやいた。


「仕方ありません。課長どころか、専務までそうだったんですから。」


係長が慰めの言葉を掛けていると


「いやぁ、なんと言っても今回のプロジェクトは秘密厳守が大命題だったからなぁ。神経使ったよ、なぁ田中。」


「はぁ・・・。」


若林が大声で周囲に話している声が聞こえて来る。


「アイツもなんか絡んでたのか?」


「一応副社長との大学時代の繋がりもあって、メンバ-に加えられてたみたいですが、田中によると、途中から完全にダミ-扱いで棚上げされて、現実に動いてたのは藤堂くんだったようです。」


「なるほど、やっぱり彼女か。なら仕方ないな。」


課長は得心したように頷いた。
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