Restart~あなたが好きだから~
取締役会を終え、副社長室に戻った圭吾を


「お疲れ様でした。」


七瀬が出迎えた。


「無事に終わったよ。さすがに、会田専務もぐうの音も出ない感じだったぜ。」


得意げな圭吾に


「それはよかったです。」


と笑顔で応えたあと


「奈穂さんから、先ほど連絡がありました。先方も社内リリ-スが無事終わったそうです。」


報告する七瀬。


「そうか。これで・・・一段落だな。」


それを聞いた圭吾も、ホッとしたように笑みを浮かべた。


「改めまして。本当にお疲れ様でした、副社長。」


七瀬が、労いの言葉と共に一礼すると


「ありがとう。だが、このプロジェクトが無事結実したのは、七瀬がいてくれたからだ。」


圭吾は優しい表情で、彼女を見た。


「とんでもございません。私は、ただ副社長のご意向に添えるように動いていただけです。」


七瀬は静かに首を振った。


「だが、全てが終わったわけじゃない。油断大敵、最後の詰めを誤れば、全てが水泡に帰すことだってある。七瀬、引き続きよろしく頼むぞ。」


「かしこまりました。」


気を引き締めるように言う圭吾の言葉に、七瀬は頷いてはいたが、その胸中には、全く別の思いが去来していた。


その日の業務が終わり、オフィスを出た七瀬。温暖化の進行が叫ばれる昨今だが、この時期の寒さはやはり厳しい。マフラ-に手袋で防寒し、家路を急ぐ七瀬が最寄りの駅ビルに入り、歩を進めて行くと、ガラスケ-スが並べられた華やかな一角が目に飛び込んで来る。


(バレンタイン、か・・・。)


コ-ナ-に着いている人影はまばらだったが、あと2週間もすれば、多くの人で賑わうのだろう。もっとも、かつては恋愛の一大イベントだったセント・バレンタインデ-も近年は、その様相を全く異にしているらしい。


調査によれば、「女性から男性へ愛の告白をする」という意味合いは今や全く薄れ、バレンタインデ-チョコの送り先の1位は「自分」なのだという。以下「家族」、「お世話になった人」、「友人」と続き、かつては日本企業の欠かせない文化だった「義理チョコ」に至ってはもはや絶滅寸前らしい。


七瀬自身、大和に贈ることがなくなってからは、実家を離れたこともあって、家族にも贈らなくなり、まして義理チョコなどとは全く無縁のまま過ごして来た。
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