Restart~あなたが好きだから~
「佐倉さんのお墓参りがしたい。」


七瀬の言葉に応えて、大和が彼女と共に弥生の墓前に立ったのは、立春も過ぎ、暦の上では春とは言え、まだまだ寒さ厳しい折の日曜のことだった。


「佐倉家乃墓」と正面に掘られた、見るからに真新しい墓石の下に、弥生の遺骨が納められてから、まだ1週間も経っていなかった。大和に続いて、その前に立った七瀬は、線香を手向けると静かに手を合わせ、改めて彼女の冥福を祈った。


「ありがとう。」


七瀬が手を降ろし、一礼したのを見て、婚約者として大和は礼を述べた。そんな大和に軽く頷いた七瀬は、でも視線は墓石に向けたまま


「やっぱり・・・寂しいね。」


と呟くように言った。


「正直、そんなに佐倉さんと親しくなかった私ですら、こんなに寂しくて、辛い気持ちになるんだもん。大和や佐倉さんのご両親の悲しみがいかばかりのものか・・・。」


そう言って、言葉を途切れさせた七瀬に、大和は小さく頷くと


「悲しいし、寂しい。でもさ、それ以上に悔しくて、怒りが湧いて来る。なんで・・・なんであんな素敵な人が、こんなに早く天に召されてしまったんだって。どうして助けてやれなかったのか、自分の無力が情けない・・・。」


絞り出すような声で言う。そんな大和に、七瀬は掛ける言葉も見つからず、静寂の時が流れて行く。黙って並んで、弥生の眠る墓を見つめる2人。そんな時を勇気を振り絞って、破ったのは七瀬だった。


「大和。」


その声に応えて、振り向く大和。


「今日、ここに連れて来てもらったのは、もちろん佐倉さんのお墓参りがしたかったからだけど、もう1つ、大和に聞いてもらいたいことがあったからなんだ。」


そう言うと、七瀬も大和を見る。ふたりの視線が重なる。


「こんな時に、こんな所でって言われちゃうかもしれないけど・・・でも、どうしても大和に聞いて欲しいことなんだ。」


「・・・。」


「聞いて・・・くれるかな?」


躊躇いながら、でも懸命に言葉を紡いだ七瀬に


「ああ。」


大和は頷いた。そして向き合ったふたり、また沈黙が流れるが、それを振り払うように


「今はそんなことは考えられないことはわかってる。でも、私は大和のことが好き、佐倉さんとあなたが恋人同士になるずっとずっと前から好きだったの。」


大和を真っすぐに見つめ、七瀬ははっきりと告げた。見つめ合うふたり、やがて


「そうだったんだってなぁ・・・。」


大和はそう言って、笑った。
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