Restart~あなたが好きだから~
セント・バレンタインデ-がやって来た。昼食休憩時にオフィスに集まった秘書課の面々は、協力して用意したチョコをそれぞれの手元に受け取った。これから午後の各自のスケジュ-ルに合わせて、各取締役、もちろん女性取締役たちにも、秘書から手渡すことなっていた。
「それじゃ、みんなよろしくお願いしますね。」
課長の言葉に頷いて、各自が持ち場に戻ろうとすると
「七瀬、大丈夫?」
ひとりが七瀬に声を掛ける。
「何だったら、私代わろうか?」
七瀬と圭吾の噂は当然、秘書課の面々も知っていたが、身近で見ている限り、2人の関係性が特別気まずくなったりしているようには見えなかった。ただプライベ-トでの接触がなくなったのも確かであり、ゆえに本当のところがどうなっているのか、聞くことも出来ず、やきもきしている状況だった。ただもし噂が真実だったら、いかに「義理」とは言え、今の七瀬が圭吾にチョコを渡すのは、お互いにキツいんじゃないかという配慮というかお節介だったのだが
「大丈夫です。」
七瀬は笑顔で答えると、そのままオフィスを出て、副社長室に戻った。この日の圭吾は、午前中に社内会議、ミーティングを立て続けにこなすと、昼食もそこそこに慌ただしく外出して行った。社長のお伴で経済団体の会合に出席したあと、更に2件の取引先を単独で訪れる予定で、今日はこのまま社に戻る予定はなかった。
デスクに向かい、パソコンを開いた七瀬は、午後の執務を開始する。慣れた手つきで書類を作成し、掛かって来る電話には、怠りなく対応し、必要に応じて、SNSを通じてすぐに圭吾の指示を仰ぐ。その姿はまさに能吏としか言いようがなかった。
こうして、時は瞬く間に過ぎて行き、気が付けば定時を告げるチャイムが社内に鳴り響く。が、彼女の手は休むことなく動いたまま。やがて30分が過ぎた頃、スマホが震え出した。着信者を確認した七瀬はすぐに
「お疲れ様です。・・・はい、私はいつでも出られます。・・・はい・・・はい、かしこまりました。では後ほど、失礼いたします。」
と応答して電話を切ると、手早く片づけをして七瀬は席を立った。身支度を整え、副社長室を出た彼女を
「藤堂さん。」
秘書課長が呼び止めた。
「本当に大丈夫なの?」
と心配顔で尋ねて来る課長に
「これから副社長にお目に掛かって、チョコはキチンとお渡しします。では失礼します。」
課長が心配していることが、そんなことではないことくらい、百も承知ではあったが、七瀬は笑顔で答えると、これ以上何も言わせないように、彼女に背を向けると足早に歩き出した。
「バレンタインの夜は、お時間をいただけませんか?」
七瀬が圭吾に申し入れたのは、何日か前のことだった。それに対する圭吾の返事は
「わかった。」
そのひと言だけだった。
(いよいよ・・・だよね。)
という思いが七瀬の胸にこみ上げて来ていた。
「それじゃ、みんなよろしくお願いしますね。」
課長の言葉に頷いて、各自が持ち場に戻ろうとすると
「七瀬、大丈夫?」
ひとりが七瀬に声を掛ける。
「何だったら、私代わろうか?」
七瀬と圭吾の噂は当然、秘書課の面々も知っていたが、身近で見ている限り、2人の関係性が特別気まずくなったりしているようには見えなかった。ただプライベ-トでの接触がなくなったのも確かであり、ゆえに本当のところがどうなっているのか、聞くことも出来ず、やきもきしている状況だった。ただもし噂が真実だったら、いかに「義理」とは言え、今の七瀬が圭吾にチョコを渡すのは、お互いにキツいんじゃないかという配慮というかお節介だったのだが
「大丈夫です。」
七瀬は笑顔で答えると、そのままオフィスを出て、副社長室に戻った。この日の圭吾は、午前中に社内会議、ミーティングを立て続けにこなすと、昼食もそこそこに慌ただしく外出して行った。社長のお伴で経済団体の会合に出席したあと、更に2件の取引先を単独で訪れる予定で、今日はこのまま社に戻る予定はなかった。
デスクに向かい、パソコンを開いた七瀬は、午後の執務を開始する。慣れた手つきで書類を作成し、掛かって来る電話には、怠りなく対応し、必要に応じて、SNSを通じてすぐに圭吾の指示を仰ぐ。その姿はまさに能吏としか言いようがなかった。
こうして、時は瞬く間に過ぎて行き、気が付けば定時を告げるチャイムが社内に鳴り響く。が、彼女の手は休むことなく動いたまま。やがて30分が過ぎた頃、スマホが震え出した。着信者を確認した七瀬はすぐに
「お疲れ様です。・・・はい、私はいつでも出られます。・・・はい・・・はい、かしこまりました。では後ほど、失礼いたします。」
と応答して電話を切ると、手早く片づけをして七瀬は席を立った。身支度を整え、副社長室を出た彼女を
「藤堂さん。」
秘書課長が呼び止めた。
「本当に大丈夫なの?」
と心配顔で尋ねて来る課長に
「これから副社長にお目に掛かって、チョコはキチンとお渡しします。では失礼します。」
課長が心配していることが、そんなことではないことくらい、百も承知ではあったが、七瀬は笑顔で答えると、これ以上何も言わせないように、彼女に背を向けると足早に歩き出した。
「バレンタインの夜は、お時間をいただけませんか?」
七瀬が圭吾に申し入れたのは、何日か前のことだった。それに対する圭吾の返事は
「わかった。」
そのひと言だけだった。
(いよいよ・・・だよね。)
という思いが七瀬の胸にこみ上げて来ていた。