Restart~あなたが好きだから~
会社を出て、電車を乗り継いで、七瀬は待ち合わせ場所であるビルに入ると、目指す店に急ぐ。


「予約していた藤堂ですが。」


七瀬が告げると、圭吾はまだ到着してないようだった。案内された部屋で、七瀬が静かに待ち受けた人が、姿を現したのは、それから20分程経ってからだった。


「お疲れ様でした。」


そう言って、頭を下げた七瀬に


「すまん、待たせたな。」


圭吾は申し訳なさそうに答える。


「とんでもありません。私が急に我が儘を申し上げたから・・・ご迷惑をお掛けして、申し訳ございません。」


「大丈夫だ。お前からのお誘いなら、あのあとどんなスケジュ-ルが入っていたとしてもキャンセルするさ。」


そう言って笑うと、圭吾は席に着いた。


「久しぶりだな、お前とこんな風に向かい合うのも。」 


と自分を真っすぐ見て言う圭吾に


「はい。」


七瀬は頷いた。


「ここは以前、お前の誕生日祝いで来たレストランだ。そして、その食事の後、俺は初めてお前に想いを伝えた。」


「はい。」


「そんな場所に、七瀬の方から誘ってくれた。ちょっとテンション上がるな。」


冗談めかして、そんなことを言い出した圭吾に


「あの・・・実は、これをお渡ししたくて。」


と言って七瀬が差し出したのは、秘書課からの義理チョコだった。


「いつもお世話になっております。これからも引き続きよろしくお願いします。」


そう言って頭を下げる七瀬を、圭吾は少し見つめていたが


「七瀬は義理堅いな。」


と苦笑交じりに言ったあと


「ありがとう。」


笑顔でそのチョコを受け取った。その後、運ばれて来たコース料理は、前回と同じものだった。ふたりは、久しぶりの一緒に過ごすプライベ-トの時間を楽しんだ。


そして会計の際は


「場所を決めたのは私ですし、まして今日は女の方がご馳走すべき日です。」


と、七瀬はガンとして譲らず


「バレンタインデ-って、そういう日か?」


圭吾は苦笑いを浮かべながら、引き下がるしかなかった。そして、店を出た七瀬は彼を先導するようにスカイデッキに向かう。扉を開け、屋外展望台に出た2人を包む空気は、前回と違い凍てつくように冷たく、ふたりの吐く息は白くなる。でもそんなことは意に介さぬようにふたりは、前回と同じ夜景を見やるように並んで立った。
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