Restart~あなたが好きだから~
翌日も、その次の日も、大和は目を覚ますことがなかった。彼の容態は悪化もしないが、改善の様子もなく、医師の最初の見立てとは裏腹に長期戦の様相を呈し始めた。


そしてこの日も七瀬は業務を終えると、後片付けを済ませ、オフィスを出た。圭吾はこの日は午後から外出していて、そのまま夜は取引先との会食の予定となっていた。当初はこの席には秘書も同席するはずだったのだが


「欠席で構わん。彼のところに行ってやれ。」


朝のスケジュ-ル確認の時に、圭吾に言われた。


「そうはいきません。今回の席は私とあちらの秘書さんとの顔合わせも目的の1つですから。」


当然、予定通り出席するつもりだった七瀬は、驚いて答えたが


「顔合わせなら、また別の機会を作る。向こうには俺から言っておくから、気にするな。」


圭吾がこともなげに言うから、七瀬は黙って一礼して、下がって来るしかなかった。


そして今、退勤報告のLINEを送ると間もなく


『お疲れ様。大変だが、あんまり無理はするなよ。』


とメッセ-ジが返って来た。


こうして病院に向かった七瀬だったが、この日も虚しく時が過ぎるだけだった。面会時間の終了と共に、病院を後にして、自宅に戻り、遅い夕食を摂っていると、スマホが鳴り出した。沙耶からだった。


『どうなの?幼なじみくんの容態は?』


「はっきり言って、全く予断を許さない状況。」


『そっか・・・。』


「それより沙耶、今回は本当にごめんね。」


実は明日からの週末、挙式を間近に控えた沙耶から


「結婚したら、なかなか機会がなくなるから。」


と誘われて、1泊旅行に行くことになっていたのだが、今回の件があって急遽キャンセルしたのだ。


『仕方ないよ。こんな時に旅行なんて気分にならないし、側に居てあげたいっていう七瀬の気持ちは当然だと思う。幼なじみくんが七瀬の彼氏ならね。』


「えっ?」


『言っとくけど私は、今回のキャンセルを怒ってるわけじゃないからね。七瀬にとって大和くんがどんな大切な存在なのかはちゃんと知ってるから。でもね七瀬、今のあなたにはもうちゃんと彼氏がいるんだよ。バレンタインデ-にあなた自身があなたの意思で告白したんでしょ?』


「うん・・・。」


『迷って、待たせてた時とはもう違うんだよ。事が事だけに、副社長さんも文句は言い辛いだろうけど、でもいい気分はしてないはずだよ。』


「そう、だよね・・・。」


当然すぎるほど当然の沙耶の指摘に、七瀬は思わずスマホを手にしながら、頷くしかなかった。
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