Restart~あなたが好きだから~
「初めてだな。」


「えっ?」


「七瀬のプライベ-トファッションを拝むのは。」


「そう、ですね。」


「普段の凛々しいビジネススタイルとはまるっきり別人だ。可愛すぎるな、俺の彼女は。」


「圭吾さん・・・。」


「お、ちゃんと名前呼びも忘れてないな。感心感心。」


「・・・。」


楽しそうにハンドルを握っている圭吾を、複雑な思いで見る七瀬。


「じゃ、目的地まで直行するぞ。」


「あの、どこに行くんですか?」


「俺の部屋だ。」


「えっ?」


サラリと凄いことを言われて、息を呑む七瀬に


「何を動揺している?本当ならこの前のバレンタインの日に、ホテルへ行ってたんだぜ、俺たち。」


圭吾は平然と言う。


「でも・・・。」


そうだからと言って、いきなり家というのは・・・そんな七瀬の心の言葉など、お見通しとばかりに


「安心しろ、いきなり取って食おうっていうわけじゃない。なんか重大な話があるみたいだから、俺の部屋なら、誰にも邪魔されず、落ち着いて話せるだろう。」


と言って圭吾は笑う。


(確かにそうかもしれないけど・・・。)


思わぬ展開に困惑する七瀬だったが、車は順調に目的地に向かっている。今更降りることも出来ずに


(こうなったら・・・。)


覚悟を決めたように、視線を前に向けた七瀬を、圭吾はチラリと横目で見た。そうこうしているうちに、40分程で、彼の住まいである高層マンションが見えて来て、車はそのパーキングに滑り込んで行く。


「着いたよ。」


「はい。」


車を降り立ったふたり。自分の横に並んで来た七瀬の右手を圭吾が取ると、彼女は一瞬身を固くしたが、すぐに素直に彼に従って歩き出した。オートロックを解除して、中に入ったふたりは、エントランスを突っ切り、そのままエレベ-タ-に乗り込む。圭吾の手で10のボタンが押されると、扉が閉まり、エレベ-タ-が動き出す。


高速エレベ-タ-は音もなく、あっという間にふたりを10Fに運ぶ。扉が開いて、フロアに圭吾と共に降り立った七瀬は、気圧されたかのように足を止めた。


「どうした?」


「いえ、私、タワ-マンションの中に入るの初めてで、ちょっと緊張しちゃって・・・。」


「そうか。だが、せっかく緊張してくれてるのに、申し訳ないが、ここはタワマンと呼ばれるには、少し高さが足りないらしい。」


そう言って、ニヤッと笑うと、圭吾は自宅のドアを開いた。
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