Restart~あなたが好きだから~
「どうぞ、彼女を中に入れても、恥ずかしくないくらいには片付いているつもりだが。」


「失礼します。」


緊張の面持ちで中に入った七瀬は、まずその広さに驚かされる。


「3LDK、ですか?」


「ああ。前に澤崎が遊びに来た時に、『お前、いくらなんでも、ここに1人で住むのは贅沢過ぎるぞ。俺と理子が住んでやるからお友だち価格で貸せ。』とか、ふざけたことを言われたよ。確かに今は部屋も使い切れなくて、持て余しているのは確かだが、俺だっていつまでもここに1人で住むつもりじゃないからな。」


圭吾は笑いながら言う。その言葉を聞きながら、物珍し気にキョロキョロと周囲を見回しながら、七瀬が徐々に中を進んで行くと、バルコニ-に出る。眼下には美しい河川敷の景色が広がり、若いファミリ-数組がバーべキュ-を楽しんでいる。


「なんとかヒルズのような、目を見張るような夜景は望めないが、ここには東京とは思えないくらいの春夏秋冬の美しい自然がある。夏には目の前で花火が上がるんだ。駅は近いし、大きなショッピングセンタ-が2つあって、買い物にも困らない。なかなか快適な暮らしだぜ。」


「素敵、ですね・・・。」


思わず呟くように言う七瀬。じっと目の前に広がる景色に見入っている彼女に


「コーヒ-を煎れてくる。座って待っててくれ。」


圭吾が言う。その言葉にハッとした七瀬は


「いえ、そのお構いなくって言うか、私が煎れます。」


慌てて言うが


「ここは俺の家だ。お客様はデカい顔して座ってろ。」


と言うと、彼はキッチンに入って行く。申し訳なさを感じながら、七瀬はソファに腰を下ろした。待つこと数分、戻って来た圭吾が七瀬の前にコーヒ-を置く。


「ありがとうございます。」


頭を下げる七瀬を見ながら、腰を下ろした圭吾は


「どうだ、気に入ってくれたか?」


と尋ねる。


「えっ?」


「七瀬もいずれ、ここに住むことになるんだ。なんだったら、すぐにでも引っ越して来てくれてもいいんだぞ。」


そう言って、笑みを浮かべている圭吾の顔を、七瀬は固い表情で見つめていたが、やがて意を決したように


「申し訳ありません。」


と言うと深々と頭を下げた。


「七瀬・・・。」


「やっぱり、私、あなたのパートナ-にはなれません。」


七瀬が震えるような声で、そう告げた時、部屋の空気が凍った。
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