Restart~あなたが好きだから~
「でも実際に会ってからは、希望を持ってしまった。この部屋に誘ったら、お前が強く拒むことなく、ノコノコ着いて来たからだ。」


「圭吾さん・・・。」


「まさか、俺の部屋に来て、別れ話をして、無事に帰れると思ってる程、お前が呑気な女だとは思わなかった。」


と言うや否や、七瀬の身体を抱き寄せる圭吾。ハッと身を固くした七瀬は、しかし抵抗するそぶりも見せずに、涙を浮かべた瞳で、圭吾を見上げている。


「お前・・・覚悟してたって言うのか?」


驚きの表情を浮かべる圭吾に、七瀬はコクンと小さく頷く。


「結局私は・・・あなたの心を弄んだだけです。だから、せめてものお詫びを・・・私にはこんな方法しか思い浮かばなかったんです。」


「七瀬・・・。」


肩を震わせながら、それでも懸命に自分を見つめる七瀬に、圭吾が言葉を失っていると、インタ-ホンの音が部屋に鳴り響いた。驚いたように自分を見る七瀬を突き放し、インタ-ホンに向かった圭吾は


「何してた、遅いぞ。」


怒ったような声を出す。


「ごめんなさい。でもこちらの伺うの初めてだから、ちょっと迷っちゃって・・・。」


と答えた声に聞き覚えがあって、インタ-ホンの画面を見た七瀬は


(愛奈さん・・・。)


またしても、お取り込み中に登場した愛奈に唖然とする。が、この前と違い、圭吾の方は


「わかった、とにかく上がって来てくれ。10Fだからな、間違えるなよ。」


当たり前のように言って、インタ-ホンを切った。状況が理解できず、説明を求めるような七瀬の視線も知らぬげに、圭吾は愛奈を待ち受けている。


すると、再びチャイムの音が鳴り響き、圭吾がドアを開く。


「お邪魔します、本日はお招き・・・。」


華やかな表情で、そう言い掛けた愛菜は、そこで固まる。部屋の中に七瀬の姿を見たからだ。


「全く、お前のお陰で危うくセクハラ性犯罪者になるとこだったぞ。正直ちょっと残念な気もしてるが・・・」


と訳のわからないことを言い出した圭吾に


「どういうことですか?なんで、藤堂さんがいるんですか?」


詰問口調の愛奈。七瀬ももちろん同じ思いだったが


「七瀬、お前は俺を傷付けたと罪悪感を感じているようだが、そんなに自分を責める必要なんかない。だって、あの日の俺たちは・・・どっちもどっちだったんだから。」


そんな圭吾の言葉を聞き、息を呑むような表情になる。
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