Restart~あなたが好きだから~
圭吾の「来週には動き出せるようにしてくれ」という厳命を受けて、体制を整えた営業部第二課は新システムの売り込みにいっせいに走り出した。


「瑛太、ソリュ-ション営業だよ。忘れないでね。」


「わかってる、今回のシステムを提案すべき顧客のリストアップはちゃんと出来てる。」


「さすが。」


「藤堂主任に叩き込まれたからな。」


「私も。だから、瑛太には負けないから。」


「お互い頑張ろう、さやか。」


「うん。」


田中瑛太が小野さやかとこんな話をしていると


「田中、小野、俺たちの苦労の結晶をいよいよ世に問う時が来た。しっかり頼んだぞ。」


主任の若林が2人の肩をポンポンと叩いて、離れて行く。


「俺たちの苦労の結晶って・・・主任、別に何もしてないし。」


と呆れ顔で言う恋人に


「しっ。」


慌てて、田中は自分の右手人差し指を唇の前に立てて見せ、小野はペロリと舌を出した。


彼らの奔走もあり、新システムは順調にシェアを拡大して行った。その様子を、今回のプロジェクトの影の立役者である七瀬が、副社長室から見守っているうちに、季節は桜の季節を過ぎ、GWも終わり、爽やかな新緑の時期を迎えていた。


この日、(株)プライムシステムズ氷室社長と(株)ビーエイト貴島社長が共同記者会見に臨み


「今回のコラボの成功を機会に、両社の連携を進め、2年後を目途に両社は対等合併する。」


と発表した。


「両社が合併することにより、業務のウイングを広げることが出来る。当初は経営統合を考えていたが、メリット、デメリットを検討した結果、合併の方が得られるものが大きいと貴島社長とも合意出来たので、本日の発表に至ったわけです。」


氷室社長はそう言うと、満足そうな笑みを報道陣に向けるのを、七瀬は副社長室の社内モニタ-で見ていた。


(まさか自分が関わって来たプロジェクトが、最終的にこんな大きな果実になるなんてな・・・。)


と感慨に耽っていた。


その頃、父の代理で経済団体の会合に出席していた圭吾は、会場を出たところを経済紙の記者に囲まれた。


「今回の発表を受けて、一言コメントをお願いします。」


「今の心境を正直に申し上げると、ワクワクしていると同時に、身の引き締まる思いです。」


「今回の発表と同時に、副社長と貴島愛奈ビーエイト副社長のご婚約も発表されましたが。」


ニコヤカに応対していた圭吾だったが、その質問が飛んだ途端に表情を固くすると


「その件と今回の合併は、全く関係がありません。プライベ-トのことですし、その件についてのお答えは、この場では差し控えさせていただきます。」


と答えると、足早にその場を離れた。
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