Restart~あなたが好きだから~
「それで式はいつ頃?」


と尋ねる七瀬の口調はやや棒読み調。


「11月の頭の連休で考えてる。その頃だと俺も弥生もちょうど仕事が落ち着くから。」


「そっか・・・やっぱり26歳、なんだね・・・。」


思わず呟いた七瀬は


「えっ、なに?」


大和に聞き返され


「ううん、なんでもない。ところで佐倉(さくら)さんは、結婚後も仕事続けるの?」


と慌てて話題を変えた。


「その予定。今はその方が普通だからな。」


「そっか。それにしても、あと約半年か・・・これから忙しくなるね。」


「まぁな、でも楽しみだよ。」


そう言って、また屈託なく笑う大和の表情から、思わず七瀬は目を逸らしてしまう。


「七瀬ももちろん出席してくれるよな?」


大和の問いに


「・・・うん。」


一瞬躊躇ったけど、頷く七瀬。今は頷くしかなかった。


「ありがとう。また連絡するよ。」


「うん。じゃ、佐倉さんによろしく。」


「ありがとう。あ、せっかくだから駅まで送ろうか?」


「大丈夫、大した距離じゃないし、それに、まだ暗くなってもいないから。」


「そっか。じゃ、ここで。あっ、そうだ。」


「まだ何かあるの?」


思わずそう口走ってしまった七瀬を


「忙しいのはわかるけどさ、もう少し頻繁に帰って来いよ。」


真っすぐに見つめて、大和は言う。


「おじさんもおばさんも、いつも寂しがってるし、七瀬のこと本当に心配してるんだぞ。それに、俺も。」


その言葉に七瀬はハッと息を呑みながら、大和を見る。


「何驚いてるんだよ、当たり前だろ。俺にとって、七瀬が大切な幼なじみであることは、ずっと変わんないんだから。」


「大和・・・。」


「じゃ、またな。」


そう言って、優しい笑顔を向けてくる大和と向かい合っていることに耐えられなくなって、七瀬はクルリと背を向けると、足早に歩き出した。


曲がり角に差し掛かり、ふと振り向いてみると、まだ大和は七瀬を見送るように立っていて、彼女が振り向いたのを見ると、また笑顔で大きく手を振って来た。それを見た七瀬は慌ててまた彼に背を向けた。


(誰のせいで、実家に帰って来られなくなったと思ってるのよ。)


思わずそんな気持ちがこみ上げてくる。が


(誰のせいって、自分のせいじゃない。そう全部、自分のせい・・・。)


すぐに別の思いが浮かんで来て、七瀬の足は一段と速まる。もう居たたまれなかった。
< 20 / 213 >

この作品をシェア

pagetop