Restart~あなたが好きだから~
圭吾と愛奈の婚約というニュ-スが、プライムシステムズ社内で駆け巡ると


「これが合併実現の担保ってわけか。」


「なるほどねぇ。」


などという声が上がる一方


「えっ?藤堂さんじゃなかったんだ・・・?」


「彼女にご執心で、それで無理に秘書に引っ張ったって聞いてたのになぁ。」


「結局、最後は家柄というか出自というか、そういうのがモノを言うってことだ。」


などと囁く声が聞かれた。


「藤堂もなんか勘違いして、秘書の分を弁えないで、なんかいろいろ出しゃばってたけど、ザマないな。」


営業部第二課のオフィスでは、若林がこんなことを放言している傍らで


「藤堂さんは結局捨てられたってことでしょ?」


「副社長を見損なったよ。」


「本当、可哀想過ぎる。」


田中瑛太と小野さやかが憤っていた。


そんな雰囲気の中、夕方帰社して来た圭吾は、まず社長への報告を済ますとオフィスに戻って来た彼を、いつものように七瀬は恭しく出迎えたあと


「すみません、なんか事実ではない噂が社内を駆け巡っているみたいで・・・。」


と困惑した表情で言い出す。


「らしいな。お前もいろいろ言われたんじゃないか?」


「はい・・・一応説明はしたんですけど・・・。」


「まぁ仕方がない、言いたい奴には言わせておけ。業務に支障でも出れば別だが、そんなのいちいち気にしてても、仕方がない。」


そんなことを言いながら、腰を下ろした圭吾の前に立った七瀬は、今日これまでの状況を簡潔に報告した後、表情を固くして


「副社長、折り入ってお話がございます。」


と切り出した。


「どうした?」


「これを・・・よろしくお願いいたします。」


そう言って、1通の封筒を静かに、圭吾のデスクの上に差し出した。「退職願」と書かれたその封筒にチラリと目を落とした圭吾は、すぐに


「とうとう来たか・・・。」


と言うと、苦い表情を浮かべて七瀬を見た。


「やっぱり気持ちは変わらなかったのか?」


「えっ?」


「プロジェクトに目途が立ったら、辞表を出す。以前、愛奈にそう言ったそうだな。」


と尋ねた圭吾の表情は厳しかった。
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