Restart~あなたが好きだから~
駐車場に車を入れた七瀬は、車を降りると、トランクから車イスを降ろし、それを助手席の横まで転がし、そして助手席のドアを開いて、大和が車から降りるのを介助し、車イスに彼が腰を下ろすまで支える。それははっきり言って、かなりの重労働で


「七瀬さん、本当にすまない。ありがとう。」


それがわかっている大和は、本当に申し訳なさそうな表情になるが、七瀬は首を振ると


「行こうか。」


笑顔で言って、車イスを押し始める。


「久しぶりだなぁ。」


「えっ?」


「ここに来たの。あの時はまだ寒かったんですよ、誰かと一緒に来たんだけど、誰だったっけなぁ?」


悪気のない大和の言葉が、七瀬の胸に突き刺さる。今、大和が言った「あの時」に、一緒にここを訪れたのは、他の誰でもない、自分だった。今日と逆で、七瀬の希望でここに来たふたりは、弥生の墓参を済ませた後、心の内をぶつけ合った。あんな大切な時間も、今の大和の記憶にはないのだ。そんな虚しさ、切なさをこれからも、何度も味わうことになる。


それだけではない、先ほどのような肉体的負担も容赦なくのしかかって来る。


(大和を支えたいなんて、簡単に言ったけど、現実はそんな生易しいもんじゃないんだ・・・。)


歩を進めながら、七瀬は思わず、唇をギュッと噛み締めていた。


弥生の墓が見えて来た。


「あれ、誰かいるなぁ。」


大和が言う。確かに誰かが、墓前で手を合わせている。月命日だから、他の墓参者がいても不思議はなかったが、近づいて行くうちに、それが誰かわかった七瀬はハッとする。その気配に振り返ったその墓参者も、ハッとした表情を浮かべる。


「福地さん・・・。」


七瀬がその名を口にすると、彼はペコリと頭を下げて来たから、七瀬も慌てて下げ返した。だが


「誰?」


不思議そうに大和は七瀬に尋ねる。説明しようとする七瀬を目で抑え


「弥生の従弟の福地爽哉です、今日はありがとうございます。」


と丁寧に挨拶する。


「そうだったんですか。ごめんなさい、実は僕・・・。」


申し訳なさそうに事情を説明しようとする大和に


「いえ、どうかお気になさらずに。」


事情はわかっているとばかりに、優しい笑顔で福地は答えた。
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