Restart~あなたが好きだから~
先に墓前に手を合わせた七瀬は、その後、福地の手を借りると、大和の身体を支え、彼の墓参を手助けした。それが終わり、車イスに戻った大和が


「弥生、ご無沙汰してごめんな。」


と婚約者に改めて語り掛け始めたのを見て、七瀬は福地と共に、そっと彼から少し離れた。


「すみません、助かりました。」


七瀬が先ほどのお礼を言うと


「いえ、一応本職なんで。」


笑顔で答えた福地だったが、すぐにその笑顔を収めると


「でも大変でしたね、まさかこんなことになるなんて・・・。」


慰めるような口調で言う。


「正直、悪い夢でも見てるんじゃないかと思いました。いえ、今でも時々そう思っちゃいます。」


「本当に藤堂さんのことがわからないんですか?」


「ええ。」


「そんなことが、起こるんだなぁ・・・。」


思わず慨嘆交じりに言う福地。ここで、一旦言葉が途切れ、ふたりは大和の様子を見ていたが


「僕らいとこはみんな齢が割と近くて、子供の頃は結構行き来もあって、仲が良かったんです。」


やがて福地が、穏やかな表情と口調でそう言い出した。


「それが中学生くらいになると、やっぱり男女の壁が出来て、なんとなく疎遠になって行って、まして僕らは血が繋がってますからね。余計、そんな対象に見られなかった。それがある日、その中の従姉の1人に自分が抱いている気持ちに、本当に我に返ったように気が付いてしまって・・・。でもその時にはもう手遅れでした。」


そう言って、福地は寂しそうな笑顔を浮かべた。


「僕には、藤堂さんの気持ちが・・・わかるような気がします。」


「福地さん・・・。」


「だから・・・応援してます、あなたのことを。」


一瞬見つめ合った2人。そして


「じゃ、僕はこれで。今日は弥生の為に、ありがとうございました。大和さんによろしくお伝え下さい。」


まだ墓前で弥生に語り掛けている大和に声を掛けるのを憚った福地は、そう言うと一礼して、去って行った。その後ろ姿を見送っていた七瀬は、彼が視界から消えると、そっと大和に近付き、そして並んだ。すると、それに気付いて、大和が七瀬を振り仰いだ。


「七瀬さん・・・。」


「ごめん、邪魔した?」


「ううん、大丈夫。福地さんは?」


「帰られた。大和によろしくって。」


「そっか・・・。」


そして、ふたりはまた、墓標に視線を向けた。
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