Restart~あなたが好きだから~
エピローグ
季節は梅雨真っただ中だったが、快晴で、真夏を思わせる暑さになった7月のこの日。
その3日前に、(株)プライムシステムズは今年の株主総会を終えていた。株式会社にとって「一番長い日」と言われるほど重要な日。まして今年は、(株)ビーエイトとの合併提案という重大な議案があり、社内では総会の紛糾を懸念する声もあったが、矢面に立った圭吾の見事な立ち回りもあり、大きな波乱はなかった。
その総会が終わるまでは力を貸して欲しいという圭吾の要望を受け、副社長秘書を務めて来た七瀬だったが、総会の成功を見届け、本日退任の日を迎え、今は約1年間使って来たデスクの整理を行っていた。
引き出しを開けると、すぐに1本のUSBメモリが目に入る。着任してまもなく、誕生日を迎えた七瀬に圭吾がプレゼントしてくれたものだ。
着任した時点で「ジュニアの花嫁候補」と勝手に周囲から見られていた七瀬だったが、誕プレがUSBメモリだったのを見て、圭吾は自分を口説く気なんか毛頭ないと、確信したものだ。ところが実際は・・・。
(まさかまさかの展開だった。1年、本当にあっと言う間だったな・・・。)
この1年間、このUSBメモリは大活躍だった。しかし今、秘書を辞めるに当たって、持ち出すことが許されない書類や情報が、この中には数えきれないほど入っている。パソコンに差し込み、初期化の操作をする。そのボタンを押した途端、この一年余りの出来事が走馬灯のように甦って来て、またそれらが一緒に消えて行くような思いにかられ、七瀬は胸をつかれる。
(自分で決めたことなのに、やっぱり寂しいんだ・・・。あの時の城之内さんの気持ちがやっとわかったな・・・。)
だが、そんなおセンチな気分は
「主任!」
突然それをぶち壊すような声が聞こえて来て、吹き飛んだ。
「だから私、主任じゃなくなってもう1年以上経ってるし、だいたいここ半月ほどは、同じ秘書として勤務して来たでしょ?」
七瀬は呆れたような表情で声の方を見て言う。
「す、すみません・・・。」
と言って、頭を掻いたのは七瀬の後任となる田中瑛太だった。「副社長秘書を命ずる」という辞令を受け取った時、田中は、文字通り飛び上がった。
「ぼ、僕が副社長秘書、それも藤堂主任の後任なんて、無理に決まってます。課長、断って下さいよぅ・・・。」
半べそをかいて、上司に泣き付いたが
「会社の辞令を断る権利なんて、サラリ-マンにはないんだ。」
と一蹴され、まさに恐る恐る着任して来た。
その3日前に、(株)プライムシステムズは今年の株主総会を終えていた。株式会社にとって「一番長い日」と言われるほど重要な日。まして今年は、(株)ビーエイトとの合併提案という重大な議案があり、社内では総会の紛糾を懸念する声もあったが、矢面に立った圭吾の見事な立ち回りもあり、大きな波乱はなかった。
その総会が終わるまでは力を貸して欲しいという圭吾の要望を受け、副社長秘書を務めて来た七瀬だったが、総会の成功を見届け、本日退任の日を迎え、今は約1年間使って来たデスクの整理を行っていた。
引き出しを開けると、すぐに1本のUSBメモリが目に入る。着任してまもなく、誕生日を迎えた七瀬に圭吾がプレゼントしてくれたものだ。
着任した時点で「ジュニアの花嫁候補」と勝手に周囲から見られていた七瀬だったが、誕プレがUSBメモリだったのを見て、圭吾は自分を口説く気なんか毛頭ないと、確信したものだ。ところが実際は・・・。
(まさかまさかの展開だった。1年、本当にあっと言う間だったな・・・。)
この1年間、このUSBメモリは大活躍だった。しかし今、秘書を辞めるに当たって、持ち出すことが許されない書類や情報が、この中には数えきれないほど入っている。パソコンに差し込み、初期化の操作をする。そのボタンを押した途端、この一年余りの出来事が走馬灯のように甦って来て、またそれらが一緒に消えて行くような思いにかられ、七瀬は胸をつかれる。
(自分で決めたことなのに、やっぱり寂しいんだ・・・。あの時の城之内さんの気持ちがやっとわかったな・・・。)
だが、そんなおセンチな気分は
「主任!」
突然それをぶち壊すような声が聞こえて来て、吹き飛んだ。
「だから私、主任じゃなくなってもう1年以上経ってるし、だいたいここ半月ほどは、同じ秘書として勤務して来たでしょ?」
七瀬は呆れたような表情で声の方を見て言う。
「す、すみません・・・。」
と言って、頭を掻いたのは七瀬の後任となる田中瑛太だった。「副社長秘書を命ずる」という辞令を受け取った時、田中は、文字通り飛び上がった。
「ぼ、僕が副社長秘書、それも藤堂主任の後任なんて、無理に決まってます。課長、断って下さいよぅ・・・。」
半べそをかいて、上司に泣き付いたが
「会社の辞令を断る権利なんて、サラリ-マンにはないんだ。」
と一蹴され、まさに恐る恐る着任して来た。