Restart~あなたが好きだから~
「大和のバカ!」


自分の部屋に帰り着いた途端、七瀬はそう言って、背負っていたカバンをベッドに投げつけていた。先ほどの幼なじみの言葉は、七瀬にはショックであり、また腹が立った。


「さっきの告白・・・なんで断ったの?」
「彼氏、欲しくないの?」


大和は真顔で自分に尋ねて来た、本当に大和にはわからないのだろうか?


(そんなの、大和がいるからに決まってるじゃん。)


大袈裟ではなく、生まれてからずっと一緒にいた2人。それを疑問に思ったことなど、七瀬は1度もなかった。確かに幼い頃、「やまとくん-ななちゃん」と呼び合っていた頃の相手への感情はお友達、いやむしろきょうだいに近かった。


でもいつしかお互いを呼び捨てで呼び合うようになり、お前らいつも一緒にいるなと周囲から揶揄われても平気だったのは、それがお互いに自然だったからだし、望んでいるからだ。少なくとも七瀬はそう信じて来た。選択肢が他にもあったのに、一緒の高校に進む道を選んだのが、なによりの証拠だ、そう思っていたからだ。


確かに付き合っているのかと問われて、それを肯定したことはない。「腐れ縁」そんな言葉で、周囲からの問いをやり過ごして来た。でもそれは一種の照れ隠し、今はそういう関係になる為の「移行期間」、それが七瀬の思いだった。


それが・・・。


「だってさ、彼女といっぱい話したり、いろんな所に一緒に行ったりして・・・そんなのにやっぱり憧れるよ。」


大和は言った。


(確かに私たち、お互いにまだ告白はしてないよ。でもそれって、今まで私たちがずっとして来たことじゃないの?)


いくら幼なじみだとしても、年頃になった男女が、当たり前のように一緒にいるということは、心の中ではお互いがお互いをそういう存在だと認めているから。七瀬はそう思って来た。それが・・・。


(大和は・・・私のこと、なんだと思ってるのよ!)


悲しみ、憤り、虚しさ、衝撃・・・そんな感情が自分の中でグチャグチャになってしまった七瀬は、結局その夜、ほとんど眠ることが出来なかった。


翌朝、目を真っ赤にした七瀬がインタ-ホンを押すと


「おはよう。」


いつも通りの表情で出て来た大和が、いつも通りに呼び掛けて来ると、いつも通りに自分の横に並んで来た。昨日の出来事に、何も感じていない大和の姿に、七瀬は内心愕然とした。
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