Restart~あなたが好きだから~
七瀬は主任として、部下の管理者であると同時に、自身が最前線に立つ営業マンだった。その成績は第二課では常にトップ、そんな七瀬に上長たちは全面的な信頼を寄せ、逆に彼女に苦々しさや反発を覚える面々もその率先垂範の姿勢の前に、結局は黙らされてしまう。


上司に媚びず、同僚や部下と群れず、ビジネス以外の関わりを周囲とほとんど持とうとしない彼女は、まさに営業部第二課の中では孤高の人。そんな七瀬は、絵に描いたような有能なビジネスマンとして、やるべきことをやり終え、1週間を駆け抜けると


「では、お先に失礼します。」


上司に、そして周囲に挨拶して、オフィスを出ると、終業打刻を終え、会社の建物を出た。


(終わったな、今週も。)


1つ息を吐き、ビジネスマンの衣を脱ぎ捨てた彼女は、この後、唯一無二の親友である山村沙耶と食事の約束をしていた。いつものイタリアン居酒屋に入ると、沙耶は既に待っていた。


「で、今度は何があったの?」


七瀬が席に着くなり、沙耶は尋ねる。


(先週末は法事で実家に帰るって言ってたから、そこでまた何かあったんだろうな。)


ということは、当然察しがついている。水を向けられた七瀬は


「ねぇ沙耶。なんで、親っていう生き物は、娘の顔を見る度に『まだ彼氏はできないのか?』『結婚はどうするの?』しか言えないのかなぁ!」


いきなりボルテ-ジを上げて、愚痴り出す。


「あはは、やっぱりそっち系の話か。」


「笑い事じゃいないよ。本当、うんざりなんだけど。」


「でもそんなのは、実家帰る時点で想定内でしょ?」


「そりゃそうだけどさ、でもやっぱりウザいんだよ!」


ここでアルコ-ルが運ばれて来て、話はいったん中断。まずは喉を潤したあと


「まぁ気持ちはわかるけど、さ・・・。」


沙耶と言うと


「それだけじゃないの。」


「えっ?」


「大和が・・・とうとう正式に婚約したんだ・・・。」


そう言って、ぐびりとコップをあおる七瀬。


(なるほど。それでいつもにも増して、荒れてるんだ・・・。)


合点がいった沙耶の脳裏に、かつての思い出が甦って来る。
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