Restart~あなたが好きだから~
やがて、ようやく締めの時間となり、司会から最後の挨拶を促された七瀬が


「入社以来4年間、営業部でお世話になりました。週明けからは、全く畑違いの仕事になりますが、また新入社員になったつもりで、頑張りたいと思います。みなさん、ありがとうございました。お身体を大切にされて、これからも業務に邁進して下さい。」


この2週間同様に、淡々と述べると、お義理のような拍手が起こり、花束が贈られ、会はお開きとなった。上司に最後の挨拶をし、解放された七瀬が、足早に駅に向かって歩き出すと


「主任!」


と彼女を呼び止める声がした。驚いて振り向いた七瀬の目に飛び込んで来たのは


「田中くん・・・。」


慌てたように追い掛けて来る田中の姿だった。


「すみません、最後のご挨拶にも伺えなくて。その、若林さんに捕まってしまって・・・申し訳ありませんでした。」


本当に申し訳なさそうに頭を下げて来る田中に


「ううん、こうやって最後に来てくれただけで十分だよ。ありがとうね。」


七瀬は笑顔で答えると、田中は照れ臭そうに首を振ったが、すぐに表情を改め


「あの。」


「なに?」


「ご迷惑でなければ、ちょっとお話できませんか?」


と呼び掛けて来る。一瞬驚いた表情を見せた七瀬だったが


「うん、いいよ。じゃ、少し歩こうか?」


と答えると


「はい!」


田中は嬉しそうに頷いた。


こうして、肩を並べて歩き出した2人。話をする為に、歩き出したはずなのに、誘った田中も応じた七瀬も口を開くことはなく、ただ黙々と歩いて行く。やがて人込みから抜け、周囲が静かになると


「主任。」


田中が足を止め、七瀬の方を向いた。それに応じるように七瀬も田中の方を向き、2人は向かい合う形になった。


「ビックリしました。」


「えっ?」


「別れって、会社の別れって、こんなに急にやって来るんですね。ウチの課ではもちろん、他の課を含めたって、営業成績トップの主任が、突然営業部から外れるなんて、僕は想像もしたこともなかったです。」


「まぁ今回は定期の辞令じゃなかったからね。」


「パワハラ問題があったからですか?」


「田中くん・・・。」
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