Restart~あなたが好きだから~
食事を済ませて、田中たちがオフィスに戻ると、七瀬は既にパソコンに向かっている。それを見て、田中は慌てて自席に向かい、仕事を再開させる。そんな田中に対して、若林は自分の仕事そっちのけで、提案書作成に口を挟んで来る。どうやら、田中を介して七瀬と張り合うつもりらしい。


上長と世話になった先輩の板挟みになるような形になって、正直困惑しながらも、田中は提案書の作成を急ぐ。取引先との約束の日は、もう変更は出来ない。当たり前だが、「間に合いませんでした」ではすまないのだ。


そして取引先訪問前日も押し迫って来た頃、田中は緊張の面持ちで、再び七瀬の前に立った。


「よろしくお願いします。」


田中が差し出して来たペーパーを受け取ると


「読み終わったら呼ぶから、席に戻ってていいよ。」


そう言って、七瀬は黙読を始める。戻っていいとは言われたが、そんな気にはとてもなれずに、田中はそのまま待機しているし、若林や他の社員たちも、ちらちらと様子を伺うように彼らを見ている。


どのくらい経ったのだろう。田中にとっては、とてつもなく長く感じられたその時間を


「田中くん。」


と呼びかけて破った七瀬が顔を上げる。ハッと身体を固くした田中に


「大丈夫なんだよね?」


「えっ?」


「この提案書に基づいて、明日きちんとお取引先にプレゼン出来るんだよね?まさか、この書類をお渡しして、『後はよくお読み下さい』で、帰って来るわけにはいかないんだから。」


七瀬は尋ねる。


「は、はい。それは・・・。」


当然わかっているとばかりに田中は頷く。若林を相手に練習もしたし、当然七瀬にも、今から説明するつもりだった。


だが、田中の顔を少し見た後


「わかった。じゃ、明日よろしくね。」


七瀬は言った。


(えっ、何も言わないのかよ・・・。)


田中はもちろん、周りの社員たちも拍子抜けしたように七瀬を見たが


「じゃ明日は現地集合と言うことで。遅れないようにね。」


そう言って、話を終わらせた七瀬は席を立つと、そのまま何処へかと出て行った。それを見送ると


「さすがにあの女も何も言えなかったみたいだな。」


若林が満足そうな声で田中に言う。


「明日は自信持って臨めよ。」


「は、はい。」


先輩からの激励に田中はひとつ頷いた。
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