Restart~あなたが好きだから~
城之内を従えて、迎えの車の後部座席に乗り込んだ氷室は、すぐに彼女と話を始める。それは社に戻るまで、途切れることなく続き、父である社長への帰国報告を挟み、専務室に戻ってからも続いた。


その様子を車内では助手席から、専務室では氷室のデスクの前に立つ城之内の横で、七瀬は見ていた。


2人の話の内容は、全くチンプンカンプンというわけではなかったが、七瀬にはまだよくわからないことも多かった。それよりなにより、七瀬が驚いたのは、氷室の問いに対して、まさに打てば響くといった様子で、即答する城之内の姿だった。


(ある程度のやり取りは、事前に電子メ-ルやなにかでもしてるだろうけど、それにしても・・・。)


七瀬は隣の先輩秘書の姿を改めて見る。整った目鼻立ちに眼鏡を掛け、濃紺のスーツに膝下丈のスカ-トを身に着け、履いてるのは、程良い高さのヒールがあるパンプス。そして淀みなく、的確なその話しぶり。清潔感溢れた有能女性秘書の姿が、そこにはあった。


それを見ながら、思わず七瀬が内心ため息をついていると


「藤堂さん。」


専務から声が掛かり


「は、はい。」


慌てて答える。


「そろそろ、時間だよな。」


「あ、これはうっかりしました。藤堂さん、ごめんなさいね。」


2人に言われ


「いえ、でも・・・。」


とても帰れる状況には思えず、戸惑う七瀬。だが


「今日はご苦労さん。初日でいろいろ大変だったろう。我々はまだ少し話や打ち合わせがあるから、今日のところは、先に帰ってゆっくり休んでくれ。」


「明日からまたよろしくね。お疲れ様でした。」


と言われては


「わかりました。それでは、本日はお先に失礼します。」


2人に頭を下げて、七瀬は再開された彼らの話し声を背に、専務室を出る。秘書課のオフィスに顔を出し、課長に退勤の挨拶をすると、そのままエレベ-タ-に乗り、退勤手続きを終えて建物を出た途端


(まさしく、絵に描いたような「THE 秘書」って感じだよな。城之内さん・・・。)


そんな思いが浮かんで来た。


(内示受けた時、お前みたいな女に秘書なんか務まるのかよって、若林くんにバカにされたけど、自分でもその通りだと思うよ。能力的にも性格的にも、私がとても城之内さんのような秘書になれるとは思えない・・・。)


思わずまた、ため息が出る。
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