Restart~あなたが好きだから~
30分程で執務室に戻って来た氷室に


「お帰りなさい。それで、社長のお話はどのような?」


尋ねたのは城之内だった。


「今度の株主総会の件だった。別に急に俺を呼び出すような話じゃないと思うんだが、とにかく、なにか気になり出すと、すぐに解決しないと気が済まない人だからな。まぁそのせっかちさが、何事もゆるがせにしない社長の仕事ぶりに繫がって、今日の我が社を作ったとも言えるんだが。」


そう言いながら、少し苦笑いを浮かべる氷室に


「11時からの営業部からの定期報告は、午後1番に変更しました。でも、他のスケジュ-ルは動かせないので、昼食時間を削っていただかざるを得ないことに・・・。」


申し訳なさそうに城之内が告げる。


「やっぱりそうなるか、まぁ覚悟はしてたけど。ま、仕方ないな。じゃ、気を取り直して・・・一昨日頼んだ資料、出来上がった?」


話題を変えた氷室に


「はい。」


と応じたのは七瀬だった。


「見せてくれるか?」


「こちらです。」


書類を差し出す七瀬に


「おぅ、準備がいいな。」


と笑顔を向けた氷室は、それを受け取ると、パッと表情を切り替えると、真剣な表情で読み始めた。黙読すること数分、スッと顔を上げて、前に立つ七瀬を見上げた氷室は


「これ、藤堂さんがひとりで作ったのか?」


と尋ねる。


「はい。」


「いい出来だ。」


「えっ?」


「俺が求めてる内容が、簡潔かつ明瞭に纏まっている。このまま取締役会にも提出出来るぞ。」


「そ、そんな・・・。」


「私が少しレクチャ-しただけで、あとはスラスラと・・・営業部時代も藤堂さんの作ったプレゼン資料は、分かり易いと取引先からも評判だったと聞いてます。さすがですね。」


「さっき、社長のスケジュ-ルをキチンと確認してあったのにも、感心した。新任の秘書で、なかなか出来ることじゃない。」


「・・・。」


氷室と城之内から褒められ、戸惑いと気恥ずかしさから、七瀬が反応に困っていると


「この資料があるなら、昼飯にちゃんとあり付けそうだ。安心したよ。」


氷室はそう言って笑った。


執務室に戻って、席に着いた七瀬は


(確認は城之内さんに言われて、やっただけ。スケジュ-ル調整だって、私にはどうしていいかわからなかったし・・・。)


せっかく褒めてもらったが、不安は募るばかりだった。
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