Restart~あなたが好きだから~
その後も「私はもう黙って見てるだけ」だったはずの城之内に、何度もフォロ-をされながら、2日間は過ぎて行った。そして


「みなさん、7年間、お世話になりました。ありがとうございました。」


城之内理子の挨拶に、拍手が沸き起こる。普段は、それぞれの仕える上長のオフィスに詰めていて、なかなか一同に会することのない秘書課の面々が、最終勤務を終えた彼女を見送るべく、秘書課のオフィスに集まっていた。


「城之内さん、本当にお疲れ様でした。」


という秘書課長の言葉に笑顔で一礼した城之内に、後任である七瀬が花束を渡し、続いて同僚たちが彼女を取り囲んだ。


「理子さんが、来週からもうここに来ないなんて、なんかまだ信じられないです。」


「私もまだ実感湧かないかな。」


「でも、これから式や新生活の準備に忙しくなるから、そうなればまた気持ちも変わって来るんじゃない?」


「そうかな?」


「そうですよ。あとひと月ですよね?」


「理子さんのウェディングドレス姿、綺麗でしょうねぇ。ホント、楽しみです。」


「ありがとう。」


そんな彼女たちの交歓光景を、七瀬は少し離れた所から眺めていると


「藤堂さん。」


と秘書課長が声を掛けて来た。


「どう、着任1週間のご感想は?」


「来週からどうなってしまうのか、ただ不安が募るばかりでした。」


正直にそう答えた。


「城之内さんの代わりを、完璧に来週から務めるなんて、無理に決まってるじゃない。そんなことを考えるのは秘書歴7年、専務秘書歴3年の彼女に失礼よ。」


「それはわかってますけど・・・。」


「城之内さんはいなくなってしまうけど、私も秘書課の他の先輩もいるんだから、困ったことがあったら、なんでも相談してくれればいいんだから。自分で自分をあんまり追い詰めないで、いい?」


そう言うと課長は離れて行った。


それから1時間ほど経った頃。エントランスに立っていた七瀬の前に


「お待たせ。」


退勤準備をすっかり整えた城之内が現れた。


「じゃ、行きましょう。」


「はい。」


最後の退勤打刻をして、社員証を受付に返却した城之内は、フッと寂しそうな表情を浮かべた。


「城之内さん・・・。」


「行こう。」


それに気付き、思わず声を掛けた七瀬にニコッと微笑むと、城之内は歩き出した。
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